起業や新規事業を始めるとき、多くの人が最初に思うのは「とにかく早く始めたい」「行動すれば何とかなるだろう」ということです。しかし実際には、頭の中にあるビジネスのアイデアをそのまま実行してもうまくいくとは限りません。むしろ多くの場合、考えが整理されていないまま動き出すと、途中で迷ったり、資金が足りなくなったり、周囲にうまく説明できなかったりして、事業は頓挫してしまいます。
事業計画書は、そんなリスクを最小限に抑えるための強力なツールです。頭の中にあるイメージを言語化し、数字に落とし込み、第三者に伝わる形にまとめることで、自分自身が冷静に事業を俯瞰できるようになります。それは同時に、銀行や投資家、取引先、従業員など、事業に関わるあらゆる人々に「この事業は信頼できる」「将来性がある」と納得してもらうための説得材料にもなります。
この記事では、初心者でも今日から事業計画書を書き始められるよう、全体像の理解から具体的なステップ、金融機関や投資家に響く書き方のコツ、そしてよくある失敗とその回避策までを網羅的に解説します。さらに、文章の書き方や数字の作り方に不安がある人でも取り組めるよう、実践的なヒントも豊富に盛り込みました。読み終わる頃には、あなたは事業計画書の骨格を完成させ、実際に次のアクションを取れる状態になっているはずです!
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本記事の監修 松浦英宗(まつうらえいしゅう)
創業・事業成長に必要なサービスをオールインワンで提供するBusiness Jungleの代表。
外資系戦略コンサルティング会社(アーサー・ディ・リトル・ジャパン)などにおいて、事業戦略立案や資料作成に関する豊富な経験を有する。
なぜ事業計画書が必要なのか
事業計画書は単なる「提出用の資料」ではなく、ビジネスを成功させるための地図のような存在です。計画書を書くことで、自分のビジネスの目的、方向性、具体的な行動計画がはっきりと見えてきます。頭の中だけで考えていた時には気づかなかった矛盾や抜け漏れが浮かび上がり、リスクを事前に想定することができます。
計画書の目的は大きく3つあります。まず、自分のためです。自分が何をやりたいのか、どこに向かうのかを文章化することで、事業の軸がぶれにくくなります。次に、チームやパートナーのためです。同じ計画書を見ながら議論することで、共通認識を持ち、同じ方向に進むことができます。そして最後に、外部の人のためです。銀行や投資家に対して、あなたの事業の実現可能性や成長性を示し、信頼を得るための重要な材料になります。
もし計画書を書かずに事業を始めると、思いつきで動いてしまい、資金が足りなくなったり、顧客のニーズに合わない商品を作ってしまったり、仲間との認識のズレからトラブルが起きる可能性が高まります。計画書は未来の自分へのメッセージであり、失敗を防ぐための保険のようなものだと考えてください。

事業計画書の全体像を理解する
事業計画書を書くときにまず理解しておくべきことは、それが単なる書類ではなく、事業の設計図であるという点です。計画書には、あなたが取り組もうとしている事業の全体像が明確に示されていなければなりません。

最初に取り上げるべきは事業概要です。ここでは、あなたがどのような課題を解決しようとしているのか、その課題を解決することでどんな未来を実現したいのかを、簡潔かつ力強い言葉で書きます。単なる事業紹介にとどまらず、なぜあなたがこの事業をやる必要があるのか、どんな思いで挑戦しているのかといった背景も含めることで、読み手の共感を得られます。また、事業内容を一言で表現できる短いキャッチフレーズのような文章を用意すると、読者の記憶に残りやすくなります。
次に重要なのが市場分析です。市場の規模がどれくらいあるのか、その市場は今後成長していくのか、それとも成熟して停滞しているのかといった状況を示します。過去数年のデータや統計を用いて、数字で裏付けを行うことが望ましいでしょう。
さらに、その市場で活動している競合企業を洗い出し、それぞれの強みや弱み、価格帯や顧客層を整理したうえで、自社がどのポジションに立つのかを明確にします。可能であればポジショニングマップのような図解を用いると、視覚的に理解しやすくなります。また、顧客セグメントも細かく定義します。年齢、性別、居住地、行動パターン、購買動機などを具体的に描き出し、典型的な顧客像をペルソナとして設定すると、以降の計画全体がぶれにくくなります。
商品やサービスの説明では、単に機能を列挙するのではなく、それが顧客にどのような価値を提供するのかをストーリーとして語ることが重要です。どんな体験が得られるのか、どんな不満が解消されるのか、顧客の感情がどう変わるのかを描写すると、読み手は具体的なイメージを持つことができます。もし競合との差別化ポイントがあるなら、それが何で、どのように再現性や持続可能性があるのかを明確にします。技術的な優位性や独自のノウハウ、強力なパートナーシップ、既存顧客からの評価といった裏付けを示すことで、事業の信頼性が高まります。
ビジネスモデルと収益計画では、どこで売上が発生し、どのように利益が確保されるのかを明確に示します。サブスクリプションモデルなのか、単発販売なのか、仲介手数料型なのか、収益の流れをわかりやすく説明し、価格設定の根拠も記載します。市場価格や競合の料金と比較したときにどのようなポジションにあるのか、顧客が納得できる理由は何かを説明することで説得力が増します。売上予測は少なくとも3年間分を作成し、標準ケースだけでなく楽観ケースと悲観ケースも用意しておくと、計画がより現実的に見えます。利益計画では、粗利率や営業利益率、損益分岐点などを明確にして、いつ黒字化するのか、どの程度の利益が期待できるのかを読み手が把握できるようにします。
マーケティングや販売戦略の章では、どのようにして顧客を獲得するのかを具体的に示します。オンライン広告、SEO、SNS運用、展示会、紹介制度、代理店営業など、複数のチャネルをどのように組み合わせるかを書き、集客から契約、リピートまでの流れを明確にします。広告費やプロモーション費用の計画、どの指標をKPIとして追うのかも併記すると、事業の実行可能性が見えやすくなります。また、販売後のカスタマーサクセス施策や、顧客の離脱を防ぐためのリテンション施策を記載すると、長期的な収益性の高さをアピールできます。
組織体制については、誰が事業を引っ張っているのかを明確にします。経営チームの略歴や専門性、過去の実績を紹介し、事業を成功させるための実行力があることを示します。それぞれの役割分担を明確にすることで、読み手はチームのバランスや補完関係を理解できます。もし外部パートナーや顧問がいる場合は、その存在も記載して信頼性を高めます。
最後に資金計画として、どれだけの資金が必要で、それをどのように調達し、何に使うのかを具体的に示します。人件費、開発費、広告費、設備投資、運転資金などを用途別に分けると、計画性が伝わります。融資の場合は返済計画を、投資の場合は将来的な回収の見込みやEXIT戦略を簡潔に書くと、読み手は安心感を得ます。

ステップバイステップで書き進める
事業計画書は、いきなり完璧な内容を書き上げるのではなく、まず全体のストーリーを構築してから、具体的な中身を一つずつ埋めていくように進めるとスムーズです。最初に大まかな物語の骨格をつくり、「どこから始まり、どのように成長し、最終的にどんな姿に到達するのか」という全体像を描きます。このストーリーが、事業計画書全体の基準点となり、以降の細かい記述に一貫性を与えてくれます。
ストーリーができたら、まず事業の目的とビジョンを明確に言葉にします。なぜこの事業を始めるのか、何を達成したいのか、そして5年後にどんな理想的な姿を実現したいのかを描写します。目標とゴールがはっきりすると、次に必要な情報や数字も見えてきます。
次に、市場と顧客の輪郭を描きます。対象となる市場の大きさや成長性を調べ、そこにいる顧客をできる限り具体的にイメージします。年齢や性別に加えて、住む場所、ライフスタイル、日々どのように情報を集めているか、購買の動機や価値観などを細かく設定し、まるで一人の人物像をつくるようにペルソナを設定すると、以降の戦略が具体的に決まりやすくなります。
商品やサービスの価値を整理する際は、機能的な側面と感情的な側面の両方を意識します。価格やスピード、利便性といった数値化しやすい価値だけでなく、安心感や楽しさ、達成感、誇りといった顧客の感情を動かす価値を言葉にすると、ストーリーがより人間的で共感を呼ぶものになります。
そのうえで、売上予測とコストの計算を行います。まずは顧客数と単価からシンプルに売上を算出し、その後で仕入れや広告、人件費、固定費などのコストを丁寧に積み上げます。複数のシナリオを用意して、楽観的な場合、標準的な場合、悲観的な場合それぞれの結果を見比べると、計画が現実的かどうかを客観的に検証できます。
最後に、ここまで集めた情報や数字をストーリーに沿って並べ替えます。計画書は数字の羅列ではなく、一貫した物語として読者に「この事業はこうやって成長していくのか」と納得感を与えるものに仕上げることが大切です。全体の流れが一本のストーリーとして通ると、投資家や金融機関、社内メンバーにも伝わりやすくなり、実行のための共通理解が生まれます。

金融機関や投資家に響くポイント
銀行や投資家が知りたいのは、この事業が本当に成功する可能性があるのかということです。そのため、計画書には数字の根拠を明確に示す必要があります。市場データや過去の実績、第三者の調査などを引用して、なぜその数字になるのかを説明しましょう。
また、リスクに対する備えを書いておくと、読み手の安心感が高まります。例えば、売上が想定よりも下振れした場合、どのようにコストを削減するか、どんな代替策をとるかをあらかじめ示しておきます。
ストーリー性も大切です。冒頭から順に読んだときに、自然に納得できる流れになっているかを意識しましょう。デザインも重要で、グラフや図表を活用して見やすく、短時間で理解できる資料にすることがポイントです。

よくある失敗と回避策
事業計画書でよくある失敗は、数字が楽観的すぎることです。市場の成長率や顧客数を過大に見積もると、計画が机上の空論になりかねません。現実的な数字を設定し、複数のシナリオで検証しましょう。
次に、事業内容が抽象的すぎるケースです。「人々の生活を豊かにする」といった表現だけでは、具体的に何をするのかが伝わりません。実際の顧客の課題や解決方法を具体的に書くことで、読み手がイメージしやすくなります。
競合分析が不十分な計画書も多く見られます。最低限、上位の競合企業について特徴や価格帯、強みと弱みを整理し、自社の優位性を明確に示しましょう。
最後に、計画書の長さも重要です。短すぎると情報が不足し、長すぎると最後まで読まれません。10〜20ページ程度を目安に、要点を簡潔にまとめましょう。

まとめ:まずは一度書き始めることが大切
事業計画書は、作って終わりではありません。事業が進むにつれて見直し、アップデートし続けるべき生きたドキュメントです。最初から完璧を目指す必要はありません。大事なのは、まず一度書いてみることです。
一度形にすれば、そこから何を追加すべきか、どこを修正すべきかが見えてきます。定期的に見直し、数字を最新にアップデートし、計画と実績のギャップを確認していくことで、事業はより現実的で実行可能なものになっていきます。
この記事を参考に、今日から一歩踏み出してください。計画書を書くことで、あなたの事業はより確実に、より強く前進するはずです。
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