【完全版】IR資料の基本構成と書き方|テンプレート付きガイド

IR資料は、企業が投資家や株主に向けて情報を発信するための重要なツールです。IRとは「Investor Relations(投資家向け広報)」の略で、企業の財務状況や経営戦略、今後のビジョンなどを明確に伝えることを目的としています。つまりIR資料は、企業の信頼を築くための顔とも言える存在。

IR資料の主な役割は、投資家に対して企業価値と成長性を正確かつ魅力的に伝えることにあります。投資家は、IR資料に記載された情報をもとに投資判断を行うため、資料の内容が資金調達の成功や株価の安定に直結するケースも少なくありません。特に上場企業では、金融商品取引法などの法令に基づいた開示義務も課せられており、信頼性と正確性が何より重要です。

意外かもしれませんが、未上場企業にとってもIR資料の役割は無視できません。ベンチャー企業やスタートアップがVC(ベンチャーキャピタル)やエンジェル投資家にプレゼンを行う際、事業内容や成長の可能性、経営陣のビジョンを伝える武器となります。さらに、採用活動や取引先との関係構築にも活用でき、企業ブランディングの一環としても機能します。 IR資料は単なる報告書ではなく、企業の「今」と「これから」を描くストーリーブックです。数字や事実を提示するだけでなく、どのように伝えるかという「ストーリー設計力」が、読み手の信頼と共感を得るカギとなるのです。

本記事の監修 松浦英宗(まつうらえいしゅう)
創業・事業成長に必要なサービスをオールインワンで提供するBusiness Jungleの代表。
外資系戦略コンサルティング会社(アーサー・ディ・リトル・ジャパン)などにおいて、事業戦略立案や資料作成に関する豊富な経験を有する。

IR資料の例(抜粋版)

なお本記事に登場する企業名・担当者名および資料内容は、機密保持契約に基づき、実際の内容から変更しております。ご了承くださいませ。

IR資料の基本構成とは?

IR資料は、企業の実態と未来像を投資家に正しく、魅力的に伝える戦略的な文書です。その中でも、特に効果的とされる構成要素を7つに整理し、それぞれの狙いや伝え方について以下で解説します。なお、あくまでも「基本的な」構成ですので、基本をおさえつつもご自身が作成したい内容に応じて、ページの追加/削除などのアレンジを加えましょう!

目次

まず冒頭には、全体像を一目で把握できる「目次」を配置します。情報量が多くなりがちなIR資料において、見たい箇所をすぐに参照できるようにすることは読み手への配慮であり、資料全体のユーザビリティを高める重要な工夫です。ページ番号やスライド番号を明記し、過不足のない分類で構成することが重要です。

エグゼクティブサマリ

次に、「エグゼクティブサマリ」を通して、企業の現状や注目ポイントを端的にまとめます。ここでは、直近の業績ハイライトや戦略上の大きな変化(M&Aやグローバル展開など)、今後の計画やリスク要因の概要を簡潔に示すことで、資料全体の導入部分としての役割を果たします。特に、忙しい読み手たちはこのセクションだけで企業の骨格を把握しようとするため、いかに短く分かりやすく伝えるかがポイントになります。

ハイライト

その流れを受けて、「ハイライト」セクションでは、直近四半期または通期で最も注目すべき成果やKPIを視覚的に整理します。ここでは数字だけでなく、その背景要因も簡潔に補足し、投資家が「なぜこの数字が出せたのか」を理解できるように設計します。イラストやグラフを活用することで、視認性と印象度を高めるのが効果的です。



全社・事業セグメント別の業績(実績)

IR資料の中心となるのが「全社・事業セグメント別の業績(実績)」です。このセクションでは、売上・営業利益・利益率などの数値を全社と各セグメントに分けて提示します。前年同期比、前四半期比などの比較を加えつつ、各セグメントがどのように寄与したのかを明らかにすることが重要です。

事業計画

続いて「事業計画」では、今後の数値目標や施策を提示します。通期や半期ごとの売上・利益計画を具体的に開示し、成長の裏付けとなる事業施策や市場拡大の計画も合わせて記載することで、説得力を持たせます。

市場環境

また、IR資料において外せないのが「市場環境」の分析です。ここでは、自社が属する業界の成長性や市場規模、トレンド、規制の動向、競合環境などを俯瞰的に示し、「市場環境がどのように変わっていて、その変化に対して自社がどのように立ち向かっていくのか」を説明する必要があります。定量データに基づく信頼性ある情報を掲載できれば、より一層信頼できる内容に映るはずです。

中長期ビジョン

最後に、「中長期ビジョン」では、企業が数年後にどのような姿を目指しているのかを語ります。可能であれば定量目標(売上、利益率、シェアなど)を明示するとともに、それを支える重点戦略(新市場進出、技術開発、人的資本投資など)を提示し、企業の未来像にリアリティを持たせます。前年以前に発表した中長期ビジョンの途中年度にある場合は、そのビジョンがどのように進捗しているのかも忘れずに示すようにしましょう。

これらの7つの要素が整理されていることで、IR資料は「過去と現在の整理」だけでなく、「未来への説得力ある提案」へと進化します。単なる報告資料ではなく、企業の未来を投資家に示すための資料として、戦略的に構成を考えましょう。

効果的なIR資料の作り方

IR資料は情報の羅列ではなく、「伝わる」設計が求められます。そのためには、資料作成の前段階から計画的に取り組むことが成功の鍵となります。

まず、実際に資料を作りこむ前に、資料の「ストーリー」を設計しましょう。これは「どの順番で、何を、どう伝えるか」をシンプルな文章に起こす作業です。読み手の関心や期待に沿った構成にすることで、資料への理解度と納得感が格段に上がりますし、何よりもいきなり資料作成に着手してしまうと、資料全体の流れが整理されず、読んでいてまったく面白くない/読む気が失せる資料になってしまいます。

まずは資料の目次(各ページのタイトル)を決定し、その後に「各ページにはこんなことを書こう」という一言メッセージを添えることができれば資料のストーリーは完成であり、あとは各ページを作りこんでいくだけです。

ページの作り込みに際しては、視覚的に伝える工夫も忘れないようにしましょう。数字だけではなく、棒グラフ・折れ線グラフ・ピクトグラムなどを効果的に活用することで、直感的な理解を促進します。特に業績やKPIは視覚情報のほうが説得力を持ちやすくなります。

また、デザインの基本ルールも押さえておきましょう。フォントは統一し、色使いは企業のコーポレートカラーに合わせつつ、差し色を限定して整理感を保ちます。さまざまな色を入れてしまうと、情報が「うるさい」資料になってしまい、読み手の印象は悪くなってしまう点が落とし穴です。

他にも、スライド1枚につきメッセージは1つ、という原則を守るとプロっぽいページに仕上がります。いろいろと伝えたいことがあるのは分かりますが欲張りすぎず、伝えたいことが複数になる場合はページを分割する勇気を持ちましょう。

読み手が「知りたい情報を、欲しい形で、分かりやすく受け取れる」、そんな体験を設計することが、優れたIR資料をつくる最大のポイントです。

IR資料の成功事例と失敗事例

優れたIR資料は、企業への信頼を高め、投資判断にプラスの影響を与えます。実際に、多くの投資家が「IR資料の質で企業の考えが見える」と語るように、その資料自体が企業の姿勢を映し出す鏡となります。ここでは、成功・失敗の事例をもとに、どのような点に注意すべきかを解説します。

【成功事例】
ある成長企業のIR資料では、事業の全体像が明快に伝わる構成になっていました。
最初に「会社のミッション・存在意義」、次に「現在のポジショニング」、そして「未来のビジョン」という順で構成されており、ストーリーが一貫しています。加えて、KPIの提示も「なぜこの数字が重要なのか?」という背景説明付きで、読み手の理解を深めていました。

【失敗事例】
一方で、ある企業のIR資料では、スライドの枚数が100枚近くあり、要点が埋もれてしまっていました。
グラフの色使いがバラバラで、フォントも一貫性がなく、資料全体が「読みづらい」と感じさせてしまうものでした。情報量が多いのに論点が絞れておらず、結果として投資家の興味を引くどころか、逆効果になってしまった例です。

こうした失敗を避けるためには、「第三者目線」を取り入れることが有効です。一度完成した資料は、投資家と似た立場の社外関係者にレビューしてもらうことで、資料の過不足や論理の飛躍に気づくことができます。案外、こうした確認ができている企業は極めて少ないものです。

IR資料は「見せる」ものではなく「伝える」もの。その意識が成功と失敗を分ける分岐点です。

IR資料作成を効率化するには?実務に即した5つの工夫

IR資料は一度作って終わりではなく、四半期や年度ごとに更新が求められる運用型のドキュメントです。だからこそ、効率的に、かつ質を落とさずに作成・更新していく仕組みが重要です。ここでは、IR資料をよりスムーズに、正確に、そして継続的に作成・改善していくための5つの工夫を紹介します。


ベーステンプレートの活用で「ゼロから作らない」

最初からすべてを作るのではなく、あらかじめ構成が整理されたテンプレートを使うことで、作業の半分以上が時短できます。インターネットで検索すれば、IR向けテンプレートが無料・有料で豊富に存在します。これをベースに、自社のトンマナ(トーン&マナー)や会社の雰囲気に合わせて調整すれば、短時間で質の高い資料を用意できます。

Canvaのようなビジュアルデザイン特化ツールも近年人気で、ドラッグ&ドロップで図表を整えられるため、非デザイナーでも「見せる資料」に仕上げやすいのが特徴です。


数値情報はExcelと連携して「自動更新可能」にする

業績数値やKPIはExcelなどで集計されることが多いため、これをPowerPointとリンクさせておくことで、グラフや表の更新を一括で反映できるようになります。「PowerPoint側で数値を修正する」という非効率な運用を避けることで、更新時のミスや手戻りも削減できます。


クラウド型ドキュメントで「複数人編集」も快適に

IR資料は経営層、財務部門、事業部門など複数部門との連携が不可欠です。そこで、TeamsやGoogleスライド、Dropboxなどのクラウドドキュメントを使えば、リアルタイムで編集・コメント・レビューが可能になり、確認やフィードバックの手間を大幅に減らせます。


よく使う「説明文・図解パーツ」はストックして再利用

たとえば「事業概要の図」「会社沿革の年表」「ESG方針スライド」など、毎回似た内容を掲載するパーツは、フォーマットごとストックしておくのがおすすめです。過去資料の中から質の高い表現を再利用すれば、説明の質もブレにくく、作業時間の短縮にもつながります。

企業内で「IRパーツ集」フォルダを用意しておくと、属人化も防げ、チームメンバー間での引き継ぎも容易になります。


チェックリストで「抜け漏れ防止と品質担保」を仕組み化

IR資料は1つのミスが大きな信用リスクにつながるため、人的ミスの抑止も非常に重要です。スライド枚数や構成項目、財務情報、記載整合性など、毎回チェックすべきポイントを一覧化し、最終確認のルーティンを仕組み化しておきましょう。

資料の品質担保は、効率化と同じくらい重視すべき観点です。「完成したら、誰かが読む」ではなく、「完成するまで、全員で支える」体制を整えることで、ミスのない説得力あるIR資料が実現できます。


これらの5つの工夫を意識すれば、「時間はないけど、精度は下げたくない」というIR実務の現場ニーズに応えることができます。効率よく、かつ丁寧に作る工夫が、長期的な企業価値につながっていくことを意識しましょう。

すぐに使えるテンプレート

IR資料をうまく作るには、優れた事例を真似るのが一番の近道です。

私たちが作成したテンプレートをいくつかご用意したので、ぜひ使ってみてください。記載されている文章を調整すれば、時間をかけずにプロフェッショナルなIR資料を完成させることができます。

ダウンロードはこちら(他にもテンプレートがたくさん!)


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まとめ

IR資料は、企業のビジョンや価値を投資家に伝えるための最重要ドキュメントです。本記事では、IR資料の基本的な役割や構成要素、作成の実践手法から、成功事例・失敗事例、効率的なツール活用法までを体系的に解説しました。

ポイントは、「ただの情報集ではなく、伝わるストーリーとして設計すること」です。会社の魅力や信頼性を余すことなく伝えるためには、事実を並べるだけでなく、視覚表現や構成設計にもこだわる必要があります。

また、IR資料作成はチーム作業であり、ツールやテンプレートの活用で効率化することも、継続的な改善のカギです。読者の視点に立ち、読みやすく、理解しやすい構成を追求することで、投資家との信頼関係はより強固なものになります。

あなたの企業の魅力を、的確に、効果的に届ける。その第一歩として、本記事をぜひ活用してください。

ちなみに、「自分で資料を作るのは大変・・・」「プロの力を借りたい!」という方は、「Business Jungle資料作成」をご利用ください!
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