資本市場とのコミュニケーションは、企業の信頼を築き、長期的な企業価値を高めるために欠かせません。四半期決算説明会、株主総会、資金調達時のピッチなど、投資家に情報を届ける場面は数多くあります。そこで必要になるのが「IR資料」です。
投資家が求める情報を過不足なく、かつわかりやすく伝えることは簡単ではありませんが、整ったIR資料は投資家からの理解を深め、株価の安定、資金調達コストの低減、機関投資家との良好な関係構築に直結します。
この記事では、すぐに使える無料のIR資料テンプレートをご紹介するとともに、投資家が知りたい5つの情報、見直しのチェックポイント、よくある失敗例と改善方法まで徹底解説します。読み終えたあとには、次回の決算説明資料を一段とレベルアップできる具体的な手順が明確になるはずです。
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本記事の監修 松浦英宗(まつうらえいしゅう)
創業・事業成長に必要なサービスをオールインワンで提供するBusiness Jungleの代表。
外資系戦略コンサルティング会社(アーサー・ディ・リトル・ジャパン)などにおいて、事業戦略立案や資料作成に関する豊富な経験を有する。
IR資料テンプレートの無料ダウンロード
まずは無料で提供している以下のIR資料テンプレートを配布させていただきます!
このテンプレートは、上場企業や上場準備中の企業が実際に使用している決算説明資料や投資家説明会資料を分析し、共通しているスライド構成やデザインパターンを反映しています。構成は10ページ前後と短く設定しており、あくまでもこれらのテンプレートをもとに、自社流にアレンジしていただく想定で作成しております。
ダウンロード後は、まずテンプレート全体を通しで確認し、スライドの流れを把握しましょう。そのうえで、自社のIR方針や投資家層に合わせてカスタマイズします。自社の強みや独自性が伝わるように、言葉やデータ、図表を差し替えていきましょう。特に重要なのは、投資家にとって理解しやすいストーリーになっているか、数字の整合性が取れているかを意識することです。
IR資料とは?投資家にとっての役割
IR資料(Investor Relations資料)は、企業が投資家や株主に対して自社の現状や将来の見通しを説明するためのコミュニケーションツールです。決算短信や有価証券報告書といった法定開示書類とは異なり、IR資料はよりストーリー性を持たせ、ビジュアルを用いてわかりやすく情報を伝えることを目的としています。
投資家にとってIR資料は、投資判断や株主としての行動を決めるための重要な情報源です。資料が分かりやすければ、投資家は企業の成長ポテンシャルやリスクを正しく評価できますが、情報が不十分だったり一貫性がなかったりすると、不信感が生まれ、株価のボラティリティが高まる要因になりかねません。IR資料は単なる報告ではなく、企業と投資家との信頼関係を築く「対話の起点」と考えるべきです。

投資家が知りたい5つの情報
IR資料を作成する際に押さえるべき情報は、以下の5つに整理できます。この5つを網羅的かつ論理的に配置することで、投資家は企業の現状と将来を短時間で理解できます。
①企業の存在意義とビジョン
投資家は、企業がどんな使命を持ち、どんな未来を目指しているのかを知りたがります。単なる事業説明ではなく、会社が社会に提供している価値、存在する理由、長期的な方向性を明確に示すことが重要です。ミッションやパーパスを一文で表現し、さらに経営陣が描く中期ビジョンを言語化します。たとえば「2030年に国内シェア30%を目指す」「持続可能な社会インフラを構築する」など、定量目標や社会的インパクトを示すと説得力が増します。
②事業内容と市場機会
次に必要なのは、企業がどんなビジネスを行っているかと、それがどんな市場機会を捉えているかです。主要事業やプロダクトを紹介するときは、単に機能やサービス名を羅列するのではなく、顧客の課題とそれに対する解決策として位置づけます。市場規模(TAM/SAM/SOM)や成長率、競合環境をグラフで示し、なぜ自社が勝てるのかの根拠を簡潔に伝えます。
③業績と主要KPI
投資家が最も注目するのは業績とKPIです。売上高、営業利益、純利益といった基本的な財務指標に加え、ARR、MRR、LTV/CAC、リテンション率など事業モデルに応じたKPIを提示します。過去数期分の推移を見せることで成長トレンドが一目でわかるようにします。さらに、増収増益のドライバーや、前期との比較で変動した要因を説明すると、投資家は企業の成長ストーリーを理解しやすくなります。
④財務状況と資金計画
財務の健全性と今後の資金計画は、投資家に安心感を与えます。貸借対照表の要点、キャッシュポジション、フリーキャッシュフローの状況を示し、今後の投資や配当、研究開発費の見通しを説明します。必要に応じて、資金調達の計画やその使途、資本政策も提示します。ここで重要なのは、数字の正確さと透明性です。曖昧な表現や不足している情報があると、投資家はリスクを過大評価します。
⑤ガバナンスと経営体制
最後に、企業がどのように意思決定を行い、リスクを管理しているかを示します。取締役会や監査役会の構成、社外取締役の比率、コンプライアンス体制、サステナビリティへの取り組みなどを整理し、健全なガバナンスが機能していることを伝えます。経営陣の経歴や強みを紹介することで、投資家は「このチームに任せられるか」を判断しやすくなります。

投資家目線で見直すためのチェックポイント
IR資料が完成したら、投資家の立場で見直してみましょう。
初めて会社を知る人が読んでも理解できるか、数字やグラフに整合性があるか、情報が古くなっていないかを確認します。ストーリーが自然な流れになっているかも重要です。業績の説明が突然出てきたり、ガバナンスの話が断片的だったりすると、投資家は違和感を覚えます。
また、専門用語が多すぎないかもチェックしましょう。業界外の投資家にも伝わる言葉を選び、略語や指標は必ず定義を添えます。数字は単位を揃え、円かドルか、年度か四半期かを明記することで誤解を防げます。
さらに、投資家がよくする質問(今後の成長ドライバーは何か、競合に勝つ戦略は何か、キャッシュの使い道は何か)に答えられるかをシミュレーションすると、資料の完成度が一段と高まります。

よくある失敗例と改善方法
IR資料で多い失敗例は、大きく5つに分類できます。
まず「情報過多」。
一枚のスライドに文章や数字を詰め込みすぎると、かえって何が重要なのか分かりにくくなります。改善するには、1スライド1メッセージを徹底し、詳細データは別紙や補足資料に分けます。
次に「情報不足」。
業績のハイライトだけを見せて、背景や変動要因を説明しないと、投資家は不安になります。改善策としては、増減の理由を簡潔に補足し、前向きな変化だけでなく課題も正直に開示することが大切です。
3つ目は「数字の整合性の欠如」。
有価証券報告書や決算短信と数値が食い違うと、信頼性が大きく損なわれます。IR資料を作る際は、財務チームと密に連携し、すべての数値の出典と計算式を統一しましょう。
4つ目は「デザインの一貫性がない」。
フォントや色、グラフのスタイルがスライドごとにバラバラだと、資料全体が雑に見えます。テンプレートを活用し、ブランドカラーを統一すると視認性が向上します。
最後に「未来へのメッセージが弱い」。
過去実績だけを並べるのではなく、今後の成長戦略やKPIのターゲットを示すことで、投資家は将来の期待値を適切に設定できます。

まとめ|次回決算説明資料から活用するステップ
本記事では、IR資料作成の基本から、投資家が知りたい5つの情報、チェックポイント、失敗例と改善策までを解説しました。次回の決算説明資料では、まず今回紹介したテンプレートを活用して骨組みを整え、各スライドに自社の最新情報を埋め込みます。作成後は投資家目線でレビューし、社内の財務チームや経営陣にも確認を依頼して整合性を確保しましょう。
IR資料は一度作れば終わりではありません。投資家との対話を通じて得た質問や指摘を次回の資料に反映させることで、回を重ねるごとに精度が高まります。IR資料を「更新し続ける資産」と捉え、企業の成長ストーリーを常に最新の形で発信し続けることが、投資家からの信頼を獲得する最短ルートです。
ちなみに、「自分で資料を作るのは大変・・・」「プロの力を借りたい!」という方は、「Business Jungle資料作成」をご利用ください!1枚3,000円から、あっと驚く資料作成のお手伝いをさせていただきます。まずはお気軽にご相談くださいませ。

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