投資家を惹きつける!ピッチ資料の構成と作成ステップ完全ガイド

スタートアップにとってピッチ資料とは、単なる会社紹介ではなく、資金調達の第一関門を突破するための「プレゼンテーションツール」であり、「戦略的セールス資料」です。企業理念や創業ストーリーにとどまらず、ビジネスとしての魅力を定量・定性両面から示す必要があります。

なぜなら、投資家は感情だけで投資を判断するわけではなく、理詰めで勝算を測る立場だからです。加えて、VC(ベンチャーキャピタル)やエンジェル投資家、アクセラレータープログラムの担当者は、日々数十件もの提案に触れており、初見の3分で「この会社に話を聞くかどうか」を判断しています。

この資料を通じて、あなたのビジネスが「投資に値するだけの市場性を持ち、課題が明確で、解決策が魅力的で、実現可能な体制が整っている」ことを端的に伝えなくてはなりません。ピッチ資料は、スタートアップにおける最初の「勝負の場」と言えるかもしれません。

本記事の監修 松浦英宗(まつうらえいしゅう)
創業・事業成長に必要なサービスをオールインワンで提供するBusiness Jungleの代表。
外資系戦略コンサルティング会社(アーサー・ディ・リトル・ジャパン)などにおいて、事業戦略立案や資料作成に関する豊富な経験を有する。

スタートアップピッチ資料の例(抜粋版)

なお本記事に登場する企業名・担当者名および資料内容は、機密保持契約に基づき、実際の内容から変更しております。ご了承くださいませ。

資料の構成:必須スライド

それでは実際に、あるべきピッチ資料の構成を見ていきましょう。

ピッチ資料には、「この順番で話せば、事業の全体像が論理的に伝わる」という定型的な構成が存在します。資料の中で語られるストーリーは、ただの羅列ではなく、課題→解決策という流れをたどりながら信頼感を得るために必要な情報を補足していくことで、聞き手に納得感と期待感を同時に与えることができます。

以下は、多くの投資家やVCが評価する「標準的かつ説得力のある構成」です。ただし、これらはあくまでも「基本の型」であり、自分たちの目的やシチュエーションに応じて、アレンジするようにしてください。

表紙

企業名、ロゴ、キャッチコピーなどを簡潔に記載。ブランドらしさが感じられるデザインで、印象に残るスローガンを盛り込みましょう。

課題

誰が、どんな背景で、どんな課題を抱えているのか。放置すればどうなるか、なぜ今解決すべきかを、統計や事例を交えて論理的に提示します。

解決策

あなたのプロダクトやサービスがどのように課題を解決するのか、しっかりと説明しましょう。世の中にある課題を解決できるからこそ、あなたが取り組んでいくことに価値があるのです。

市場規模

TAM(Total Addressable Market:理論上で製品やサービスが対象とできる最大の市場規模)・SAM(Serviceable Available Market:自社のビジネスモデルや提供能力において実際にアプローチ可能な市場)・SOM(Serviceable Obtainable Market:競合状況やリソースを踏まえて自社が現実的にシェアできる規模)などを活用して、自社が狙う市場の規模と成長性を数値で示します。信頼できる調査会社の出典や業界データも加えると効果的です。今後事業が伸びていくぞ、という説得パートと言えます。

ビジネスモデル

誰に何をいくらで、どのように提供し、どう収益が生まれるのか。LTVやCACなどの指標や、マネタイズの根拠も含めて説明しましょう。

競合との差別化ポイント

ポジショニングマップや比較表を使い、自社の独自性・競合優位性を明示します。競合の存在を恐れず、それを上回る根拠を論理的に示すことが鍵です。ちなみによくある誤りとして「競合なし」と記載している資料がありますが、競合がない事業は存在しえないと考えておくとよいでしょう。

実績

既存のユーザー数、売上、契約企業数、提携先、KPIの達成率などを数値で記載します。実績がない場合は、開発状況や今後のロードマップを提示しましょう。

チーム

創業メンバーや経営陣の経歴と役割分担を明示します。スキルの補完関係や専門性、熱意など「この人たちに任せたい」と思わせる要素を盛り込みましょう。

資金調達額と使途

必要な資金の金額と使い道(開発・採用・マーケティングなど)、さらにその投資によって達成したいマイルストーンやKPIも明示してください。

クロージング

ピッチで伝えたいことを総括してまとめましょう。投資家に行動をしてもらいたいのであれば、「ぜひ〇〇〇をお願いします」など、具体的なアクションを提示しておくとGOODです。


資料の全体を通じて、ビジネスの筋が一本通っているかどうかが、投資家からの信頼を左右します。このような基本の型を押さえつつ、「自分の置かれている状況であれば、あるべき構成はなにか?」を考えてみてください。

投資家が重視するポイント

ピッチ資料において投資家が最も注目するのは、「このビジネスに投資することで、本当にリターンが見込めるかどうか」という点です。斬新なアイデアそのものよりも、それが現実的に実行できるのか、成長可能性があるのか、そして誰が実行するのかという「実現性」と「スケーラビリティ」の観点から判断されます。

投資家はその事業が取り組んでいる課題が明確で、かつ市場にとって本当に重要かどうかを見ています。課題が曖昧だったり、「あってもなくても困らない」ニーズである場合、投資対象としての優先度は下がります。逆に、日常的で深刻な課題、もしくは今後明確に顕在化する見込みのあるニーズに応えるビジネスは高く評価されます。

次に、投資家が注目するのは市場規模です。仮に解決策が優れていても、ターゲット市場が小さいと、大きなリターンは望めません。どのくらいの市場があるのか、その市場が今後拡大する見込みがあるのかが鍵です。なぜなら、市場の大きさと成長性は、そのままビジネスの拡張可能性(スケーラビリティ)を示すからです。

収益モデルの妥当性も重要です。具体的にどこから収益を得るのか、どのようなビジネスモデルなのかが明確に説明されていないと、「収益化の道筋が見えない」と判断されてしまいます。サブスクリプション型か、単発課金型か、広告モデルかなど、それぞれの選択理由や単価、LTV(Life Time Value:1人の顧客が契約から解約までの間に自社にもたらす総利益)、CAC(Customer Acquisition Cost:新規顧客を1人獲得するためにかかったマーケティング・営業コスト)といった指標も合わせて示されると説得力が増します。

そして、投資家は「誰がこの事業を実行するのか」にも注目します。創業メンバーのバックグラウンドや専門性、過去の実績などから、「このチームなら乗り越えられそうだ」と思えるかが判断の分かれ目です。特に、技術・営業・経営のバランスが取れたチームは信頼感があります。

資金の使い道とそのリターンの見込みについても問われます。なぜその金額を調達するのか、その資金を使って何を達成するのか、そしてその成果はいつどのように現れるのか。これらを明示できる企業は、資金の活用方針が明確で、投資家にとって安心感があります。

このように、投資家は「ワクワクするビジョン」だけでなく、「裏付けのある現実的な戦略」によって、事業の魅力を判断しています。

作成の注意点とよくある失敗

ピッチ資料を作るうえで、最も多い失敗は「伝えたいことが伝わらない」ことです。これには様々な原因がありますが、代表的なものは大きく5つに分類できます。

まずひとつ目は情報の詰め込みすぎです。
熱意を込めてすべてを伝えようとするあまり、1スライドに複数のメッセージや長文を盛り込んでしまい、結果として「何を言いたいのか」がぼやけてしまいます。スライド1枚には基本的に1メッセージを心がけ、視覚的にも余白を活かしたレイアウトが求められます。

ふたつ目は構成の流れが悪いことです。
ストーリーが前後したり、論理の接続が飛んでいたりすると、聞き手は途中で混乱してしまいます。ピッチは「物語」です。課題があり、それに対して自社が解決策を提示し、市場性や差別化、実績、チーム構成、資金の使い道と続く、王道の流れを守ることで、自然と理解を促せます。

三つ目は数字の弱さ、もしくは欠如です。
アイデアが良くても、根拠となるデータや指標がなければ、説得力は出ません。市場規模や顧客数、KPIの推移、売上見込み、単価、LTV/CACといった数字は、資料の信頼性を大きく左右します。データがなければ仮説でも構いませんが、なぜその数値になるのかの説明を加えることが必須です。

四つ目の失敗は美しくない見た目です。
レイアウトがずれていたり、フォントがバラバラだったり、配色がチグハグだと、「プレゼン前に詰めきれていない資料だな」と感じさせてしまいます。特に、投資家はきれいな資料を見慣れており、当たり前と考えているので美しさには敏感です。「見づらさ」=「準備不足」と判断されることもあるため、スライドの統一感は絶対に妥協しないでください。

最後に五つ目は熱意が感じられない資料です。
ロジックばかりに偏り、「自分たちがなぜこのビジネスをやるのか」という想いが欠落していると、共感は生まれません。起業家の原体験や問題意識、執念など、人間らしいストーリーを盛り込むことで、資料の温度が変わります。

これらを踏まえ、資料は「削る勇気」と「伝える戦略」を持って作ることが重要です。伝えることは「書くこと」ではなく、「理解されること」。常に受け手視点を持ちましょう。

作成後のブラッシュアップ

ピッチ資料が一通り完成したら、次にやるべきことは「磨き上げ」です。実は、初稿をどれだけ素早く作れるかよりも、どれだけ冷静に改善を重ねられるかの方が、最終的な完成度を大きく左右します。

まず取り組むべきは第三者レビューの実施です。社内メンバーだけでなく、できればスタートアップ経験者やVCとの接点がある知人、専門家、ピッチ経験者などに資料を見せて、率直な意見をもらってください。自分では「伝わっているつもり」でも、他者には全く伝わっていないことが多々あります。特に、前提知識のない人にも伝わるかどうかがポイントです。

次に行いたいのが、時間制限プレゼンの反復練習です。1分/3分/5分など、異なる制限時間を設けて話してみることで、本当に重要な情報とそうでない情報がはっきり分かります。制限時間の中で「どこを削るか」「どこを強調するか」を繰り返し調整することで、資料全体の構成にも新たな気づきが生まれるでしょう。

さらに、バージョン分けの意識も大切です。審査会用、投資家用、イベント用など、プレゼンする場面に応じて微調整を加えることで、より刺さる資料になります。たとえば、投資家向けには財務計画とスケーラビリティの説明を厚くし、ピッチイベント用にはストーリー性とインパクト重視の構成にするなど、目的に合わせて切り口を変えてください。

そして最後に、デザインの微調整と細部チェックを徹底しましょう。フォントサイズや色使い、図表の統一、スペルミスなどを入念に見直すことで、信頼感が大きく変わります。デザインに不安がある場合は、スタートアップ向けピッチ資料のテンプレートを活用して、「最低限整っている」状態には必ず仕上げてください。

資料は、「一度作ったら終わり」ではなく、「磨けば磨くほど強くなる」武器です。フィードバック→改善→実践のサイクルを回すことが、成功への最短ルートです。面倒くさがらず、絶対に取組むようにしてください。ここで妥協するか否かが、ピッチ資料の品質を大きく左右します。

すぐに使えるテンプレート

スタートアップピッチ資料をうまく作るには、優れた事例を“真似る”のが一番の近道です。

私たちが作成したテンプレートをいくつかご用意したので、ぜひ使ってみてください。記載されている文章を調整すれば、時間をかけずにプロフェッショナルなスタートアップピッチ資料を完成させることができます。

ダウンロードはこちら(他にもテンプレートがたくさん!)


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まとめ

スタートアップにとってピッチ資料は、資金調達の命運を分ける最重要ツールです。投資家にとっては、その数枚のスライドが「この企業と未来をともにするか否か」を決める判断材料となります。

本記事では、まずピッチ資料の役割として「会社紹介」ではなく「事業の実現性と成長性を伝えるための説得ツール」であることをお伝えしました。次に、投資家が注目するポイントとして、課題の明確さ、市場規模、収益モデル、チーム、資金使途など、判断軸の解像度を高める要素もお伝えしました。

続くスライド構成では、盛り込むべき必須要素をカバーすることで、資料全体にストーリー性と論理性を持たせる重要性について説明しました。そして、よくある失敗を回避するための視点と、完成後に資料をより洗練させるためのブラッシュアップ方法についても、実践的なノウハウをご共有しています。

成功するピッチ資料は、情報量の多さや派手なデザインではなく、「聞き手の頭と心を動かす構造とストーリー」でできています。あなたの情熱と構想を、正しく伝える準備ができていれば、チャンスは必ず引き寄せられます。資料作成に妥協せず、ぜひ今回の内容を武器に、次のステージへの扉を開いてください。

ちなみに、「自分で資料を作るのは大変・・・」「プロの力を借りたい!」という方は、「Business Jungle資料作成」をご利用ください!
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