採用市場の競争は年々激化し、特に優秀な人材ほど複数社から同時に声がかかる時代になりました。求人票と面接だけで候補者を口説ける時代は終わり、候補者が入社を決意するためには「ここで働きたい」と心から思えるだけの情報と体験が必要です。
そうした背景から近年注目されているのが「採用ピッチ資料」です。これは単なる会社紹介ではなく、候補者が自分のキャリアの未来を鮮明にイメージできるようにストーリーを設計した資料のことです。
採用ピッチ資料は、会社の存在意義、成長性、カルチャー、評価制度、働き方といった候補者が知りたい情報を体系的に伝えるための土台になります。さらに、社内の面接官やリクルーターが共通の言葉で会社を説明するための「共通言語」としても機能します。結果として、応募率の向上、内定承諾率の改善、そして入社後の定着率向上にまで影響します。
本コラムでは無料テンプレートを紹介するとともに、候補者に響くスライド構成、デザイン、ストーリーテリング、活用方法まで徹底的に解説していきます。
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本記事の監修 松浦英宗(まつうらえいしゅう)
創業・事業成長に必要なサービスをオールインワンで提供するBusiness Jungleの代表。
外資系戦略コンサルティング会社(アーサー・ディ・リトル・ジャパン)などにおいて、事業戦略立案や資料作成に関する豊富な経験を有する。
無料テンプレート紹介と活用のポイント
まずは無料で配布している採用ピッチ資料のテンプレートを3つご紹介します。
まずは、無料配布している3種類の採用ピッチ資料テンプレートを一度確認しましょう。スライドの流れや見出し、デザインの雰囲気をざっと眺めることで、どんな情報をどう整理すればよいかイメージが湧きます。この時点ではまだ手を動かさず、テンプレートを地図として全体像を把握することが大切です。
次に、自社資料としてのストーリーを設計します。候補者に何を一番伝えたいのか、どんな価値観や働き方を強調したいのかを整理し、一言で言えるメッセージに落とし込みます。会社の存在意義、事業の成長性、カルチャー、キャリアパスなど、候補者が知りたい要素を順番に書き出していくと、自然とストーリーの背骨ができあがります。
そのうえで、テンプレートに情報を埋め込んでいきます。まずは完璧を目指さず、仮の文章や写真でもよいので全スライドを埋めて「初稿」を作ることがポイントです。スライドをすべて通して読むことで、話の流れや不足している情報が見えてきます。
最後に、過不足のあるスライドを調整します。不要なページは削除し、逆に候補者にとって重要なのに抜けている情報は新しくスライドを追加して補います。社内メンバーや現場社員にレビューを依頼し、言葉や写真をブラッシュアップしていくことで、会社の空気感やカルチャーが自然と伝わる生きた資料に仕上がります。
なお、テンプレートを自社仕様にする際は、コーポレートカラーやフォント、ロゴの使い方を明確にし、資料全体に反映することも忘れてはいけません!
採用ピッチ資料が採用活動に与えるインパクト
採用ピッチ資料があるかどうかで、採用活動の質と結果は大きく変わります。候補者は求人票だけでは会社の全体像をつかめません。「どんな人が働いているのか」「どんな価値観で意思決定しているのか」「どんな未来を目指しているのか」など、より深い情報を求めています。ピッチ資料が整備されていれば、候補者は面接前から会社に対する理解が進み、面談の時間を条件確認ではなく、ビジョンや価値観のすり合わせに使えるようになります。
さらに、資料があることで面接官ごとに説明内容がバラつく問題も防げます。面接官AとBで伝えるメッセージが違えば、候補者は不安を感じやすく、辞退や承諾率低下につながります。ピッチ資料は全員が同じ言葉で会社の魅力を語るための共通言語となり、候補者に一貫したブランド体験を提供できます。
加えて、資料は社内コミュニケーションにも好影響を与えます。新しいメンバーが入社したときにこの資料を見れば、会社の存在意義やカルチャーを短時間で理解できます。社外向けの採用資料でありながら、社員教育の教材としても機能するのです。

優秀人材が知りたい5つの要素(会社の存在意義・成長性・働き方・評価制度・カルチャー)
優秀な人材ほど、入社を決める前に会社の本質を理解したいと考えます。彼らが知りたい情報は大きく5つに整理できます。
まず「会社の存在意義」。
ミッションやパーパスが明確かどうかは、候補者の共感を得るうえで非常に重要です。「なぜこの事業をやっているのか」「この会社が存在する意味は何か」を一言で言い切れるかどうかで、候補者の温度感は大きく変わります。
次に「成長性」。
市場の大きさや事業の成長余地、プロダクトの競争優位性を具体的に示し、入社したときにどんな未来を一緒に描けるかを想像させます。数字やグラフを交え、3年後、5年後にどんなポジションに立てるのかを語ると説得力が増します。
三つ目は「働き方」。
フルリモートかオフィス出社か、フレックス制度はあるのか、どんなツールでコミュニケーションをとっているのか、1日の業務の流れがイメージできると候補者の不安が減ります。
四つ目は「評価制度とキャリアパス」。
どんな指標で評価され、どんな昇進・昇給のチャンスがあるかを説明すると、候補者は長期的なキャリアを具体的に思い描けます。評価基準が不透明だと優秀人材ほど不安を感じ、他社に流れてしまうリスクが高まります。
最後に「カルチャー」。
どんな価値観が大切にされているか、どんな行動が称賛されるかを具体的なエピソードで伝えることが大切です。社員インタビューや社内イベントの写真など、リアルな空気感が伝わる要素を盛り込むと、候補者は自分がその環境で働く姿をイメージしやすくなります。

魅力が伝わるスライドデザインとコピーライティング
採用資料は見た目の印象も重要です。スライドを開いた瞬間に要点が理解できるように、1スライド1メッセージを心がけます。見出しは短く、言い切り型にすることで候補者の目を引きます。本文は3〜4行以内に収め、図解やアイコンを活用して視覚的に伝えます。
コピーライティングでは、候補者目線を意識した言葉を選びます。「当社は〇〇しています」ではなく「あなたは入社後〇〇に挑戦できます」と書くことで、自分事として受け止めてもらえます。また、「挑戦できる」「広げられる」「変えられる」といったポジティブな動詞を使うと、読む人の気持ちが前向きになります。

写真・動画の選び方とブランドトーンの統一
写真や動画の効果も忘れてはいけません。これらは資料の温度感を左右します。スマートフォンで撮ったスナップ写真でも構いませんが、光や色味をそろえ、全体に統一感を出すことが大切です。可能ならプロカメラマンに依頼し、同じトーンで撮影した写真を使うと資料全体が洗練されます。
動画を入れるのであれば1〜2分程度にまとめ、会社紹介や社員インタビューをテンポよく見せると効果的です。候補者が移動中やちょっとした隙間時間に視聴できる長さが理想です。さらに、色やフォント、図形スタイルを統一することでブランドイメージが強化され、信頼感を高められます。

面接や説明会での使い方
採用ピッチ資料は作成後の活用方法が重要です。説明会では資料を投影し、ストーリーに沿ってプレゼンすることで、参加者全員に同じメッセージを届けられます。面接では事前に資料を共有することで、面談時間を条件確認ではなく深い議論に充てられます。
配布のタイミングにも工夫が必要です。エントリー後や一次面接前に資料を渡すと、候補者は事前に会社を理解した状態で面談に臨めます。結果として質問が具体的になり、面接時間が有意義になります。候補者体験が良くなることで口コミやSNSでの評判も上がり、長期的に採用広報の効果が高まります。
もちろん、あなたの会社に興味を持ち始めた方に向けて、採用ホームページに採用ピッチ資料を掲載することも忘れてはいけません。

応募率・内定承諾率を高めるためのチェックリスト
資料が完成したら、最後に必ず視点を変えてチェックすることが重要です。作り手の目線だけでなく、候補者の立場に立って「初めてこの会社を知る人でも理解できるか」「この資料を見て働くイメージが湧くか」を確認しましょう。
まず見直すべきは、会社の存在意義です。ミッションやパーパスが一文で明確に言い切れているか、抽象的すぎて候補者がピンとこない表現になっていないかを検証します。ここが曖昧だと、どれほど条件や待遇が良くても候補者の共感は得られません。
次に事業の成長性をチェックします。売上や市場規模などの数字が正確かつ最新のものになっているか、単なる数字の羅列ではなくストーリーとして語られているかがポイントです。成長の軌跡や今後の展望が、候補者のキャリアとどう接続するかが分かれば、入社への期待感が高まります。
働き方や評価制度についても、より具体的にイメージできるかを再確認します。勤務形態、リモートワークの可否、使用しているツール、1日の仕事の流れ、評価の基準やフィードバックの頻度など、候補者が入社後の生活をリアルに想像できるかが大切です。
さらに、カルチャーや価値観がきちんと資料に表れているかを見ます。写真や社員のコメント、社内イベントのエピソードが盛り込まれていれば、言葉だけでは伝わりにくい雰囲気も候補者に伝わります。
最後に、資料全体を通して候補者が「自分がこのチームで働く姿」を具体的に想像できるか、違和感や疑問が残らないかを客観的にチェックしましょう。
これらの要素がしっかりと満たされていれば、応募率や内定承諾率は確実に向上します。逆に、情報が断片的だったり、数字に整合性が取れていなかったりすると、候補者は不安を感じてしまい、他社への応募に流れてしまいます。最終チェックの時間を惜しまないことで、資料の完成度が一段と高まり、採用成果に直結します。

成功事例:ピッチ資料刷新で採用が改善
あるSaaS企業では、採用資料を刷新したことで応募数が2倍、内定承諾率が20%改善しました。
それまでは求人票と口頭説明のみで候補者に情報を伝えており、入社後のミスマッチによる早期離職が課題でした。採用チームは経営層や現場リーダーを巻き込み、会社のパーパスやカルチャーを再定義。社員インタビューを撮影し、開発現場の写真をスライドに盛り込みました。一次面接前に資料を共有する運用に変えた結果、候補者が会社理解を深めた状態で面接に臨むようになり、質問が具体的になりました。結果として、入社後の定着率も向上し、採用コスト削減にも大きく貢献しました。
これはあくまでも一例ですが、素晴らしい採用ピッチ資料を有する企業と有さない企業。どちらの企業にワクワクするかは言うまでもありません。

まとめ
採用ピッチ資料は、優秀な人材を惹きつけるための強力な武器です。
今回ご紹介させていただいたテンプレートを土台にしながら、自社のストーリーやカルチャーを織り込み、候補者が「ここで働きたい」と思える資料に仕上げていくことが大切です。資料は一度作って終わりではなく、候補者の反応や採用データを見ながら定期的にアップデートしていくことで、より効果的に進化していきます。今日から、自社ならではの採用ピッチ資料を完成させましょう。
ちなみに、「自分で資料を作るのは大変・・・」「プロの力を借りたい!」という方は、「Business Jungle資料作成」をご利用ください!1枚3,000円から、あっと驚く資料作成のお手伝いをさせていただきます。まずはお気軽にご相談くださいませ。

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