多くの企業で、研修は定期的に実施されています。新人研修、管理職研修、営業スキル研修、理念浸透研修、DXリテラシー研修など、テーマは多岐にわたります。
しかし、その現場では、受講者が集中力を失い、講師が一方的に話すだけの時間になってしまうことが少なくありません。どれほど内容が充実していても、伝わらなければ行動は変わらず、結果も残りません。
その課題を変えるカギとなるのが、研修資料の設計です。資料は単なる補足資料ではなく、受講者の理解と行動を導くナビゲーションのような存在です。見せ方や言葉の選び方、ストーリーの展開次第で、同じ内容でも参加者の反応は劇的に変わります。
例えば、ただ情報を羅列する資料ではなく、問いかけや共感を起点にした構成に変えることで、受講者が自ら考える時間を持てるようになります。また、スライドに詰め込む文字量を減らし、図や写真を活用して視覚的に理解しやすくすることで、記憶に残る学びを生み出すことも可能です。
このように、研修資料の目的は「知識を伝えること」ではなく、「行動を促すこと」にあります。今回の記事では、実際に成果を上げた企業の成功事例を通して、どのように資料設計を変えれば人が動くのかを具体的に見ていきます。ぜひ最後までご覧ください!
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本記事の監修 松浦英宗(まつうらえいしゅう)
創業・事業成長に必要なサービスをオールインワンで提供するBusiness Jungleの代表。
外資系戦略コンサルティング会社(アーサー・ディ・リトル・ジャパン)などにおいて、事業戦略立案や資料作成に関する豊富な経験を有する。
研修資料が社員を動かす理由
人は論理ではなく感情で動くと言われます。研修も同じです。いくら正しい情報を伝えても、受講者の心が動かなければ、行動変容にはつながりません。資料は、単なる知識の器ではなく、感情と行動の橋渡しをする存在です。
研修資料が社員を動かすためには、3つの要素が必要です。第1に「共感を生むストーリー」、第2に「理解を助ける構造」、第3に「行動を促すビジュアル」です。
まず、共感を生むストーリーとは、受講者が自分ごととして考えられる導入部の設計です。たとえば、「こんな経験をしたことはありませんか?」といった問いかけや、実際の現場エピソードを交えることで、受講者が自然と前のめりになります。
次に、理解を助ける構造とは、情報を順序立てて伝えることです。背景→課題→解決策→実践例の流れを意識するだけで、資料は格段にわかりやすくなります。
最後に、行動を促すビジュアルです。文字ばかりのスライドではなく、図解やイラストを用いて理解を補助することで、受講者は頭の中で再現しやすくなります。さらに、資料の最後には「明日から何を実践するか」を明示するページを設けることで、研修が行動に直結するようになります。
伝わる資料を作ることで、研修は受け身から能動的な学びへと変わり、組織に行動の連鎖が生まれるということが、お分かりいただけたかと思います。

成功事例1:新人研修で主体性が生まれた企業
あるIT企業では、毎年の新人研修が形骸化していました。資料はマニュアルのように分厚く、講義形式で行われていたため、受講者の集中は長く続かず、理解度も低い状態でした。その結果、現場配属後に基本的なミスが多発し、教育担当者の負担が増えていたのです。
そこでこの企業は、資料そのものを根本的に見直すことにしました。まず、目的を「会社を理解する研修」から「自分の成長を描く研修」へと変更し、資料もそのコンセプトに合わせて再構成しました。冒頭に「あなたはどんなエンジニアになりたいか」という問いを置き、全体をストーリー仕立てにしたのです。
スライドには実際の現場の声や、先輩社員の経験談を取り入れ、学ぶことの意味を具体的に示しました。単なる説明資料ではなく、自分の未来を想像しながら学べる内容に変えたことで、受講者の発言や質問が飛躍的に増えました。
研修後のアンケートでは、「会社の理念を自分の言葉で語れるようになった」という回答が増え、配属後の行動面でも前向きな変化が見られたといいます。
この事例から分かるのは、資料を説明書から、自分事化のきっかけに変えることで、研修が一方通行から双方向に変わるということです。

成功事例2:管理職研修で行動変革を起こした資料設計
ある製造業では、管理職研修が長年続いていたものの、受講後の行動変化が見られませんでした。原因は、資料が理論中心であり、実践的な示唆に乏しかったことです。リーダーとしての役割や目標管理の手法は学べても、それを日常業務にどう生かすかが見えなかったのです。
そこで、研修資料の目的を知識習得から、行動変革にシフトしました。新しい資料では、冒頭で現場課題を具体的に示し、課題に対して管理職として何ができるのかを受講者に考えさせる構成にしました。理論の説明部分を減らし、ケーススタディやディスカッションを促すページを中心に据えたわけです。
スライドのデザインも刷新し、文字を減らして図や写真を活用。重要なキーワードにはアイコンを添えて視覚的に強調しました。その結果、受講者が主体的に意見を交わすようになり、研修内容が実務に生かせたというアンケート回答が、大幅に向上しました。さらに半年後の評価面談では、部下との1on1実施率が研修前の2倍以上に伸びたのです。
この事例が示すのは、資料の構成が変わると、受講者の姿勢も変わるということです。資料が考えるきっかけを与えれば、学びは自走するようになります。

成功事例3:営業研修で成果が倍増したスライド構成
営業職向けの研修では、「行動につながらない」という悩みがよく聞かれます。あるサービス業の企業でも、営業研修を毎年実施していましたが、成約率や顧客満足度に変化が見られませんでした。原因は、資料が商品説明や営業フローの説明に偏っていたことでした。
この企業は、資料の再構成に着手しました。ポイントは「顧客理解から始める」ことです。
スライドの冒頭で、顧客が抱える課題や感情を具体的に描き、それに対して営業がどう貢献できるのかをストーリー形式で提示しました。また、優れた営業社員の事例や実際の成功トークも挿入し、行動のイメージを持たせました。
資料のトーンも変わりました。以前は説明的で固い印象でしたが、写真やグラフを多用し、視覚的にわかりやすい構成へと刷新。ページごとに「今回の学び」「明日からできること」を明示したことで、学びを行動に移す流れが自然に生まれました。
結果として、研修後3か月で平均成約率が15%向上し、顧客からの信頼度も高まったと報告されています。研修資料が変われば、営業の現場での会話も変わり、成果につながることを実証した好例です。

成功事例4:理念研修で組織が一体化した事例
理念研修は、多くの企業で実施されていますが、参加者にとっては抽象的に感じられ、形だけになりやすいテーマでもあります。ある食品メーカーでは、理念研修を再構築し、資料を全面的に見直しました。
この企業は、まず理念を「覚えるもの」ではなく「体験するもの」と捉え直しました。資料には経営者の言葉や創業時のエピソードだけでなく、社員自身のエピソードを掲載しました。例えば「この理念を体現した瞬間」という具体的な行動事例を集め、スライドの中で紹介したのです。
また、理念を日常業務にどう結びつけるかを考えるワークシートを資料内に組み込みました。受講者は自分の部署の事例をもとにディスカッションを行い、自分たちの言葉で理念を再定義しました。その結果、理念が個々の行動指針として根づき、社内の会話にも変化が生まれました。
この研修以降、社員アンケートでは「理念が自分の仕事にどう関係するか理解できた」と答える割合が大幅に増え、離職率も減少しました。理念を伝える資料を教えるためではなく、共感を生むための媒体に変えたことが、組織の一体感を強めたわけです。

成功事例5:DX研修で専門知識をわかりやすく伝えた工夫
DX(デジタルトランスフォーメーション)研修では、専門用語が多く、受講者の理解が追いつかないという課題があります。ある建設系企業では、全社員を対象にDX推進研修を行いましたが、初回は理解度が低く、実務に結びつかないという問題が生じていました。
そこで、研修資料を徹底的に、わかりやすくする方向へ見直しました。難しい概念は図で表現し、システムの仕組みや業務プロセスをイラストで解説。専門用語には簡潔な補足を添え、比喩を用いて直感的に理解できるようにしました。
また、資料の中に「ケーススライド」を導入しました。受講者が自分の業務に照らして考えられるよう、ケースを提示し、考える時間を設けたのです。この構成が功を奏し、受講者の理解度は前回比で2倍近く向上しました。
その後、現場では研修で学んだデジタルツールの活用率が上がり、生産性も目に見えて改善されました。研修資料がDXという抽象的なテーマを、自分の仕事に関係するリアルな課題として翻訳する役割を果たした成功例です。

成功事例に共通する3つの法則
これらの成功事例に共通しているのは、いずれも「社員の感情と行動を中心に設計されている」という点です。どの企業も、資料を単なる説明手段ではなく、共感を呼び、理解を促し、行動へ導くための媒体として活用していました。その本質を支える3つの法則を見ていきましょう。
1つ目の法則は、目的を明確にすることです。
研修の目的が「知識の共有」なのか、「行動変容」なのか、「文化の浸透」なのかによって、資料の構成は大きく変わります。目的が曖昧なままでは、情報が散漫になり、受講者の集中も続きません。最初に「何のためにこの資料を使うのか」を明確に定義し、その目的に沿って構成・デザイン・トーンを整えることで、受講者は内容を自分ごととして受け止めやすくなります。目的の明確化は、共感の出発点なのです。
2つ目の法則は、ストーリー構成を持たせることです。
人は情報を「物語」で理解します。背景、課題、解決、そして未来という流れを意識することで、受講者の感情は自然に動きます。企業が実際にどのような挑戦をしているのか、なぜそのスキルが重要なのかを、物語として語ることで、受講者は論理ではなく体験として学びを吸収します。これは、理解を深めるための最も強力な構造です。成功企業の研修資料はすべて、事実の羅列ではなく、受講者の心の動きを想定したストーリーになっていました。
3つ目の法則は、受講者が考える余白を設けることです。
研修とは知識を詰め込む時間ではなく、受講者が自ら考え、行動を起こすための場です。資料の中に問いやワーク、意見交換の余白を設けることで、受講者は受け身ではなく、主体的に思考を深めます。考えるポイントがあることで、研修後の行動が変わるのです。理解から行動への橋渡しを担うのが、この余白のデザインです。
この3つの法則は、単に資料づくりのテクニックではありません。共感を生み、理解を深め、行動を促すという、人が動くための自然な心理プロセスを形にしたものです。目的を明確にし、ストーリーで伝え、考える余白を与える。この流れを意識するだけで、研修資料は伝えるものから、動かすものへと変わります。

研修資料を作る際に意識すべきデザインの原則
良い研修資料とは、見た目が華やかなものではなく、受講者が自然に内容を理解できるよう設計された資料です。デザインの目的は装飾ではなく、情報を整理し、視覚的に伝わりやすくすることにあります。
まず大切なのは、シンプルであることです。余白をしっかり取り、1スライド1メッセージを徹底することで、受講者の視線が迷わず、内容に集中できるようになります。文字や要素を詰め込みすぎると、情報が散乱し、理解の妨げになります。
配色は、コントラストを意識して使うことが基本です。背景と文字色の明暗差をしっかりつけ、重要な部分にアクセントカラーを1色だけ加えると、資料全体の印象が引き締まります。ブランドカラーを基調にすることで、企業らしさも自然に表現できます。
フォントは多用せず、1種類に統一するのが理想です。見出しは力強く、本文は可読性を重視し、フォントサイズも変化させることで、スライドの流れがスムーズになります。
また、図やアイコン、写真などのビジュアル要素を活用することも重要です。長文を減らし、視覚的に理解できる形に置き換えることで、受講者の集中が続きやすくなります。特に研修資料では、概念を図解化することで抽象的な内容を具体的にイメージできるようになります。
最後に、全体の統一感を保つことが研修資料デザインの完成度を左右します。ページごとの余白、タイトル位置、ロゴの配置、フォントサイズなどのルールを最初に定め、それを最後まで崩さないことが大切です。統一感は無意識の信頼を生み、資料そのものにプロフェッショナルな印象を与えます。
シンプルで統一されたデザインは、情報の本質を引き立てます。伝えたいメッセージを最短距離で届けるために、デザインは常に視認性・一貫性を軸に構築することが、研修資料をより効果的な学びのツールへと高める鍵になるでしょう。

まとめ|伝わる資料が、組織を変えていく
研修資料は、企業文化を育てるための最も強力なツールの一つです。人が学び、考え、行動するきっかけをつくるのが研修であり、その中心にあるのが資料です。
今回紹介した成功事例は、どれも共通して資料を「人を動かすための設計」に変えています。情報を伝えるのではなく、共感を生み、理解を深め、行動につなげる。その積み重ねが、企業全体の変化を生み出します。 伝わる研修資料は、単に学びを支援するものではありません。組織の思考と文化を変える力を持っています。社員一人ひとりが自ら考え、動き出すためのきっかけを、次の研修資料から作っていってください!
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