MVV・パーパスの型と組み合わせを完全解説|事例付きガイド

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)やパーパスを策定するとき、多くの企業が直面する最初の壁は「MVV・パーパスをどのようにして組み合わせればよいか」ということです。

型や類型を決めずに場当たり的に作ると、MVVやパーパス同士が重なり、現場がどう解釈すればいいか分からない状態に陥ります。その結果、理念はポスターや社内ポータルの隅で眠るだけの存在になり、企業の羅針盤として機能しなくなります。

逆に、あらかじめ型・種類・組み合わせを整理して議論すれば、パーパスは「存在意義」、ミッションは「果たすべき使命」、ビジョンは「将来の理想的な姿」、バリューは「大切にしたい価値観」として明確に定義され、全社員が共通言語で語れる状態になります。

MVV・パーパスの種類(型・組み合わせ)は単なる言葉の並び順ではなく、理念を経営ツールに変える設計図。ここを疎かにするとどれだけ言葉が美しくても成果につながりません。

本記事の監修 松浦英宗(まつうらえいしゅう)
創業・事業成長に必要なサービスをオールインワンで提供するBusiness Jungleの代表。
外資系戦略コンサルティング会社(アーサー・ディ・リトル・ジャパン)などにおいて、事業戦略立案やMVV・パーパスの策定・浸透に関する豊富な経験を有する。

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)・パーパスとは?

企業が掲げるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)やパーパスは、組織が目指す方向性とそこに至る手段を明確にし、社員や顧客、社会と共有することで、組織の力を最大限引き出してくれます。


まず、ミッションは「果たすべき使命」を示し、企業が世の中においてどんな役割を果たすべきかを定義します。長期的に追い続けるべき理想の世界を描き、経営判断の起点となります。

次に、ビジョンは「将来の理想的な姿」を表し、ミッションをより具体化したゴールとして言語化します。社員が将来像を具体的にイメージしやすくなることで、日々の行動が揃いやすくなり、組織全体が同じ方向へ進むための指針として機能してくれます。

そして、バリューは「大切にしたい価値観」を示し、日常の意思決定や行動の基準となります。バリューがあることで、社員一人ひとりが迷ったときにどんな行動を選ぶべきか判断できるようになり、企業文化の一貫性が保たれます。

最後に、パーパスは「存在意義」を意味し、企業が何のために存在するのかを内発的動機として表現します。ミッションと似た概念ですが、より企業の根本的な「なぜ」にフォーカスし、社員や顧客の共感を得ることを重視します。


詳しく考えるとミッションとパーパスの境界はあります。具体的には、パーパスは「私たちは〇〇するために存在する」という内発的動機に基づいているのに対し、ミッションは「私たちは〇〇しなければいけない」という外発的動機に基づいています。

しかしながら、その境界は曖昧であり、企業によって解釈も大きく異なります。そのため、どちらも企業の「遠い未来の目指す先」を示すものと考えると理解しやすいでしょう。

これらを明確に定義し、社内外に共有することで、企業は一貫した判断軸を持ち、社員は自分の仕事の意味を感じやすくなります。

MVV・パーパスの基本型7種類と特徴

さて、前提知識を身につけられたので、さっそく本題に入っていきます。

MVV・パーパスの基本の組み合わせは、おおよそ7種類に分類されます。これだけで分かるように、MVV・パーパスの組み合わせに唯一無二の正解はありません。何よりも重要なことは、各組み合わせの特徴を理解し、自分たちにとって最適な選択肢を選び取ることです。


MVV型(ミッション・ビジョン・バリュー型)
もっとも王道の型です。まず「私たちは何を使命とするか」というミッションを定義し、次に「将来の理想的な姿」をビジョンとして言語化、最後に「大切にしたい価値観」を示します。


VMV型(ビジョン・ミッション・バリュー型)
ビジョン「将来の理想的な姿」を最初に提示してワクワク感を与え、その姿を実現するために「果たすべき使命」としてミッションを位置付ける組み合わせです。


MV型(ミッション・バリュー型)
ミッション「果たすべき使命」とバリュー「大切にしたい価値観」のみを言語化しています。ミッションを重要視しつつ、シンプルに目指す先・そこに至る方法でまとめた構成です。


VV型(ビジョン・バリュー型)
ビジョン「将来の理想的な姿」とバリュー「大切にしたい価値観」のみを言語化しています。ビジョンを重要視しつつ、シンプルに目指す先・そこに至る方法でまとめた構成です。


PVV型(パーパス・ビジョン・バリュー型)
パーパス「存在意義」を出発点に置き、将来像と価値観を加える組み合わせです。パーパスとミッションの境界線は曖昧であるため、MVV型と大きな考え方は変わらないと考えていいでしょう。


PV型(パーパス・バリュー型)
パーパス「存在意義」とビジョン「大切にしたい価値観」だけで短くまとめています。パーパスを重要視しつつ、シンプルに目指す先・そこに至る方法でまとめた構成です。


企業理念なし
あえてMVV・パーパスを明文化せず、トップの言葉や経営方針で目指す先と方法を示すパターンです。明確な理由があれば、MVV・パーパスを策定しないことも一案です。


他にも、PMVV型(パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー型)や、PMV型(パーパス・ミッション・バリュー型)、あるいは独自の考え方など、さまざまな組み合わせがありますが、多くの企業では上記の7つの基本型が採用されています。

繰り返しになりますが、MVV・パーパスの組み合わせに正解はありません。自社が正しいと感じられる型を採用することが重要です。それでは、各型について詳しく見ていきましょう!

MVV型(ミッション・ビジョン・バリュー型)

もっとも王道の型です。まず「私たちは何を使命とするか」というミッションを定義し、次に「将来の理想的な姿」をビジョンとして言語化、最後に「大切にしたい価値観」を示します。

メリットとしては、使命・将来像・価値基準を体系的に詳しく説明できることにあります。デメリットとしては、使命・将来像の違いを理解することは難しいため、MVVやパーパスについて詳しくない方の理解を得ることが大変という点があります。

段階的・論理的・構造的な説明を好む企業に向いていると言えるでしょう。トヨタ自動車やパナソニックホールディングス、日立製作所などの大企業が採用する傾向にあります。


トヨタ自動車

自動車の開発・製造・販売を中核とし、ハイブリッドやEV、燃料電池車など電動化技術を推進。モビリティサービス、ソフトウェア、コネクテッド領域にも投資し、スマートシティ構想(Woven City)など未来の移動と社会インフラの実装を進める総合モビリティ企業。

ミッション
(Mission)
わたしたちは、幸せを量産する。
だから、ひとの幸せについて深く考える。
だから、より良いものをより安くつくる。
だから、1秒1円にこだわる。
だから、くふうと努力を惜しまない。
だから、常識と過去にとらわれない。
だから、この仕事は限りなくひろがっていく。
ビジョン
(Vision)
可動性を社会の可能性に変える。
不確実で多様化する世界において、トヨタは人とモノの「可動性」=移動の量と質を上げ、人、企業、自治体、コミュニティができることをふやす。そして、人類と地球の持続可能な共生を実現する。
バリュー
(Value)
トヨタウェイ
ソフトとハードを融合し、パートナーとともにトヨタウェイという唯一無二の価値を生み出す。

【ソフト】
よりよい社会を描くイマジネーションと人起点の設計思想。現地現物で本質を見極める。
【ハード】
人とモノの可能性を高める装置。パートナーとともにつくるプラットフォーム。これらをソフトによって柔軟に、迅速に変化させていく。
【パートナー】
ともに幸せをつくる仲間(顧客、社会、コミュニティ、社員、ステークホルダー)を尊重し、それぞれの力を結集する。

ミッションが「幸せの量産」という大きなテーマでありますが、ビジョンに「可動性」というキーワードを出してトヨタらしさと具体性を出しています。また、トヨタウェイという独自の考え方もユニークです。

出所:同社HPより抜粋

VMV型(ビジョン・ミッション・バリュー型)

ビジョン「将来の理想的な姿」を最初に提示してワクワク感を与え、その姿を実現するために「果たすべき使命」としてミッションを位置付ける組み合わせです。

メリットとしては、MVV型と同様、使命・将来像・価値基準を体系的に詳しく説明できることにあり、そのうえでビジョンが最初に掲げられることで将来像を具体的にイメージすることができます。デメリットとしては、MVV型と同様、使命・将来像の違いを分かりやすく理解することが難しいため、MVVやパーパスについて詳しくない方の理解を得ることが大変という点があります。

段階的・論理的・構造的な説明を好み、そのうえで将来の理想的な姿を前面に押し出したい企業に向いていると言えるでしょう。リクルートホールディングスやタイミー、ココナラといった企業が採用しています。


リクルートホールディングス

HRテクノロジー、マッチング&ソリューション、戦略投資を展開。個人と企業の最適な出会いをテクノロジーで支援。

ビジョン
(Vision)
まだ、ここにない、出会い。
より速く、シンプルに、もっと近くに。
ミッション
(Mission)
Follow Your Heart
バリュー
(Value)
・新しい価値の創造 / Wow the World
・個の尊重 / Bet on Passion
・社会への貢献 / Prioritize Social Value

リクルートホールディングスのMVVは非常にシンプルで分かりやすい王道の構成になっています。
「まだ、ここにない、出会い。」はCMなどでもよく耳にしますね。

出所:同社HPより抜粋

MV型(ミッション・バリュー型)

ミッション「果たすべき使命」とバリュー「大切にしたい価値観」のみを言語化しています。ミッションを重要視しつつ、シンプルに目指す先・そこに至る方法でまとめた構成です。

メリットとしては、何といってもシンプルで分かりやすいことが挙げられます。デメリットとしては、目指す先の説明ボリュームが小さくなってしまうため、説明を重視する方にとっては理解しにくい可能性があります。

抽象的な使命を前面に出しつつ、シンプルに目指す先・そこに至る方法を明示したい企業に向いていると言えるでしょう。ファーストリテーリング(ユニクロ)などの大企業から、メルカリなどのチャレンジングな企業まで幅広く採用しています。


メルカリ

フリマアプリを中心にマーケットプレイス事業を展開。キャッシュレス(メルペイ)や物流連携で循環型消費を促進し、個人間取引の利便性を高める。

ミッション
(Mission)
あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる
Circulate all forms of value to unleash the potential in all people
ビジョン
(Vision)
(なし)
バリュー
(Value)
・Go Bold 大胆にやろう
・All for One 全ては成功のために
・Be a Pro プロフェッショナルであれ
・Move Fast はやく動く

メルカリはバリューだけではなく、「Our Foundations ファンデーション」として、Sustainability・Inclusion & Diversity・Trust & Openness・Customer Perspectiveを掲げています。意識的であることによって発揮されるバリューに対し、ファンデーションは特定の一人ではなく組織全体で育み、大切にする空気のようなものと定義しています。

出所:同社HPより抜粋

VV型(ビジョン・バリュー型)

ビジョン「将来の理想的な姿」とバリュー「大切にしたい価値観」のみを言語化しています。ビジョンを重要視しつつ、シンプルに目指す先・そこに至る方法でまとめた構成です。

メリットとしては、MV型と同様、シンプルで分かりやすいことが挙げられます。デメリットとしては、MV型と同様、目指す先の説明ボリュームが小さくなってしまうため、説明を好む方にとっては受け入れにくい可能性もあります。

具体的な将来像を前面に出しつつ、分かりやすく目指す先・そこに至る方法を明示したい企業に向いていると言えるでしょう。次世代型営業DXプラットフォームを提供する、マツリカなどの企業が採用しています。


マツリカ

誰でも使える、誰でも成果を出せる次世代型営業DXプラットフォームを提供。

ミッション
(Mission)
(なし)
ビジョン
(Vision)
創造性高く遊ぶように働ける環境を創る
バリュー
(Value)
Creativity
理想を諦めず考え抜こう

Liberty
枠に囚われるな

Diversity
違いは価値である

Initiative
やらされ仕事はつまらない

Open
コミュニケーションを諦めない

Challenge
情熱を燃やして挑戦しよう

Enjoy
楽しむことを忘れるな

珍しいビジョン・バリュー型の企業理念です。とはいえ、目指す先とそこに至るための価値観という、シンプルな構成と言えるでしょう。

出所:同社HPより抜粋

PVV型(パーパス・ビジョン・バリュー型)

パーパス「存在意義」を出発点に置き、将来像と価値観を加える組み合わせです。パーパスとミッションの境界線は曖昧であるため、MVV型と大きな考え方は変わらないと考えていいでしょう。

メリットとしては、MVV型と同様、存在意義・将来像・価値基準を体系的に詳しく説明できることにあります。デメリットとしては、存在意義や使命・将来像の違いを理解することは難しいため、MVVやパーパスについて詳しくない方の納得を得ることが大変という点があります。

ミッション(果たすべき使命)ではなく、パーパス(存在意義)という言葉を使用して、詳細に目指す先と至る方法を丁寧に示したい企業に向いていると言えるでしょう。花王や日本航空(JAL)といった日本を代表する企業が採用しています。


花王

コンシューマープロダクツ(パーソナルヘルス、ホームケア、化粧品)とケミカルを展開。清潔・健康・環境に関わる製品で生活の質向上に資する取り組みを推進。

パーパス
(Purpose)
豊かな共生世界の実現
ミッション
(Mission)
(なし)
ビジョン
(Vision)
人をよく理解し期待の先いく企業に
バリュー
(Value)
・正道を歩む
・よきモノづくり
・絶えざる革新

バリューの下には「共生視点」「現場起点」「個の尊重と力の結集」「果敢に挑む」という行動規範を設定しています。

出所:同社HPより抜粋

PV型(パーパス・バリュー型)

パーパス「存在意義」とビジョン「大切にしたい価値観」だけで短くまとめています。パーパスを重要視しつつ、シンプルに目指す先・そこに至る方法でまとめた構成です。

メリットとしては、MV型やPV型と同様、シンプルで分かりやすく目指す先・そこに至る方法を伝えられることです。デメリットとしては、ミッションやビジョンに馴染みのある方や、丁寧な説明を好む方にとっては納得しにくい可能性があります。

ミッション(果たすべき使命)やビジョン(将来の理想的な姿)ではなく、パーパス(存在意義)を羅針盤としてシンプルに説明したい企業に向いていると言えるでしょう。ソニーグループやサントリーホールディングスといった有名企業が採用しています。


ソニー

エレクトロニクス、半導体(イメージセンサー)、音楽、映画、ゲーム(PlayStation)等の多角事業を展開。IP創出からコンテンツ流通、体験デザインまで統合し、テクノロジーとクリエイティビティでエンタテインメント価値を提供するグローバル企業。

パーパス
(Purpose)
クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。
ミッション
(Mission)
(なし)
ビジョン
(Vision)
(なし)
バリュー
(Value)
・夢と好奇心
夢と好奇心から、未来を拓く。

・多様性
多様な人、異なる視点がより良いものをつくる。

・高潔さと誠実さ
倫理的で責任ある行動により、ソニーブランドへの信頼に応える。

・持続可能性
規律ある事業活動で、ステークホルダーへの責任を果たす。

パーパスとバリュー(同社ではSony’s Purpose & Valuesと呼称)というシンプルな構成です。2019年に策定したパーパスであり、日本で最も有名なパーパスの一つです。

出所:同社HPより抜粋

企業理念なし

あえてMVV・パーパスを明文化せず、トップの言葉や経営方針で目指す先と方法を示すパターンです。明確な理由があれば、MVV・パーパスを策定しないことも一案です。

メリットとしては、ステークホルダー(特に社員)の解釈・裁量が高くなるため、自由な雰囲気や行動が生まれやすい点にあります。デメリットとしては、目指す先や指針がないため、ステークホルダーが組織として同じ方向を向いてくれない可能性があります。

とにかくステークホルダーに解釈・裁量を与えたい、自由な組織にしたい企業に向いていると言えるでしょう。代表例としては、任天堂が採用しています。


任天堂

家庭用ゲーム機(Nintendo Switch等)とゲームソフトの企画・開発・販売を手がける。独自のIPと遊びの発明で、年齢や国境を越えて楽しめるエンタテインメント体験を創出。

ミッション
(Mission)
(なし)
ビジョン
(Vision)
(なし)
バリュー
(Value)
(なし)

実は任天堂には、明確なミッションやビジョン、バリューがありません。任天堂の3代目社長で、「ファミコン帝国の総帥」として知られていた山内溥氏は、「社是・社訓は邪魔だ」と明言しました。
企業の舵取りをする方法はMVVだけではなく、何よりも自社が考え抜いて、信念に基づいて行動していればまったく問題ありません。これも正解の一つのかたちです。

出所:ダイヤモンド・オンラインより抜粋

まとめ:MVV・パーパスの型に正解はない

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)やパーパスは、単なるお題目ではなく、組織がどこを目指し、どのように行動するかを示す経営の羅針盤です。

今回紹介した7つの基本型は、理念をどう組み合わせ、どんな順番で見せるかの代表的なパターンです。MVV型やVMV型のようにフルセットで整える方法もあれば、MV型やVV型のようにシンプルさを重視する選択もあります。パーパスを起点にするPVV型やPV型は、社会的意義を強く打ち出したい企業に有効ですし、あえて理念を明文化しないという選択肢も存在します。

大切なのは「どの型が正解か」ではなく、「自社の文化やフェーズに合う型はどれか」を考え抜き、言葉を実際の意思決定や行動と結びつけることです。型は完成した瞬間がゴールではなく、そこから運用が始まります。ワークショップや1on1、評価制度、社内報などを通じて、社員が日常の中で繰り返し触れ、使える状態にすることで、初めて生きた経営資産になります。

今回紹介した型や類型、組み合わせの特徴を理解したうえで、自社にとって最も自然で、社員が胸を張って語れる言葉を選び、長期的に育てていきましょう。


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