ピッチ資料は、スタートアップが外部の投資家と出会う最初の瞬間を支える重要なツールです。
短い時間で事業の本質を伝え、相手の関心をつかみ、その後の対話につなげる役割を担っています。投資家は多くの資料を日々目にしているため、資料の質によって数秒で印象が決まることも珍しくありません。だからこそ、一つひとつのスライドに明確な意図があり、読み手が迷わない構成であることが求められます。
資料を作成する過程は、スタートアップ自身が事業を見つめ直す機会にもなります。課題、価値、戦略、チーム、数字などが整理されていく中で、自社の強みと弱点が浮き彫りになり、戦略そのものも研ぎ澄まされていきます。ピッチ資料のクオリティは、単なるデザインの巧拙ではなく、企業としてどれだけ深く考えてきたかや、未来をどう描いているかを示す鏡のような存在でもあります。
このコラムでは、投資家が何を重視して資料を読み、どのようなポイントに価値を見出すのかを踏まえながら、スタートアップが押さえるべき10の要素を体系的に整理しました。これから資料を作り始める方にも、既存資料を改善したい方にも役立つ内容です。
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本記事の監修 松浦英宗(まつうらえいしゅう)
創業・事業成長に必要なサービスをオールインワンで提供するBusiness Jungleの代表。
外資系戦略コンサルティング会社(アーサー・ディ・リトル・ジャパン)などにおいて、事業戦略立案や資料作成に関する豊富な経験を有する。
投資家が興味を持つピッチ資料の特徴
投資家が最後まで読み進めたくなる資料には、共通した特徴があります。
まず、情報の流れが滑らかで、読み手が次に何が書かれているかを自然に理解できる構成です。複雑なテーマを扱っていても、無駄がなく、余白や図解が的確に使われている資料は、投資家に安心感を与えます。
内容そのものも重要で、課題の深さ、市場の伸びしろ、プロダクトの必然性、チームの実現力など、資料の中に散りばめられた要素が一つのストーリーとしてつながっているかどうかが大きな評価ポイントになります。単に数値を並べるだけではなく、数字が持つ背景や文脈が丁寧に説明されている資料は、読み手の信頼感を高めます。
さらに、誠実さが感じられる資料も投資家に好まれます。強みだけでなく課題や弱点にも向き合い、それをどう乗り越えるかを示している資料は、企業としての姿勢が伝わり、投資家が対話したいと思える存在になります。こうした要素が自然に凝縮された資料は、情報量が多くても読みやすく、投資家の記憶に強く残ります。
次章からは、スタートアップがピッチ資料を作成する際に押さえるべき要素を10つお伝えします。これさえ押さえれば、資料の品質が一気に向上するはずです!

要素1:解決したい課題の明確化
事業の出発点は、どんな課題を解決したいかという一点です。この部分が曖昧だと、どれだけプロダクトが優れていても説得力は弱くなってしまいます。投資家は、課題がどれほど深刻で、どれほど多くのユーザーに影響を与えているのかを重視します。
課題は、できるだけ具体的なシーンで描くことが重要です。ユーザーがどの瞬間に困り、どんなストレスを感じているのか。その課題が放置されることでどんな不利益が生まれるのか。背景と文脈を丁寧に伝えることで、投資家は事業の必然性を理解できます。
また、課題の深さと広がりの両方を示すと効果的です。ニッチな課題でも深刻であれば価値があるという示し方もあれば、多くの人に共通する課題のスケール感を説明する方法もあります。資料の中で最初に強く印象づけたい要素です。

要素2:ターゲットユーザーのリアルな姿
どのユーザーに向けた事業なのかが曖昧だと、プロダクトの価値も市場戦略もぼやけてしまいます。投資家は、ターゲットユーザーが適切に定義されているか、そしてそのユーザーが本当に課題を抱えているかを見ています。
ユーザーを具体的に描くためには、ペルソナやストーリー形式で説明する方法が有効です。ユーザーがどのような生活を送り、どのような行動パターンを持ち、何に困っているのかを具体的に描写すると、投資家は自然とプロダクトの必要性を理解できます。
また、実際のインタビューやヒアリング内容がある場合は、それを盛り込むことでリアリティが増します。ユーザーの存在が明確であればあるほど、資料全体の説得力が増していきます。

要素3:プロダクトと提供価値
プロダクトの説明は、スライドの中でも特に印象に残りやすい部分です。重要なのは、プロダクトの機能を並べることではなく、ユーザーにどのような価値や変化をもたらすのかを示すことです。
プロダクトによってユーザーの行動がどう変わるのか、課題がどう解消されるのか、どのような成果が生まれるのか。こうした視点で説明すると、投資家は価値を直感的に理解できます。画面イメージや利用フローの図解は、文章よりも強く理解を促します。
さらに、競合と比べたときの独自性や強みを丁寧に言語化すると、プロダクトの位置づけが明確になり、投資家はより高い納得感を得ることができます。

要素4:市場の魅力と成長余地
スタートアップにとって、市場選びは成功の大部分を決める要因です。市場が大きく成長しているほど、企業の成長機会も広がります。投資家は、市場が伸びる明確な理由や背景も重視します。
市場規模そのものも重要ですが、成長率、ユーザーの行動変化、産業構造の変化など、未来の可能性を感じさせる要素があると、事業の魅力が一層強まります。TAM、SAM、SOMを用いた整理は、狙う市場の大きさを直感的に理解してもらううえで効果的です。
また、市場の中でどのセグメントに注目しているのか、その選択理由まで説明されている資料は、事業の進め方に筋が通っていると評価されます。

要素5:競合環境の正確な把握
競合を正しく理解しているスタートアップは、それだけで信頼感を得ます。投資家は、競争環境への理解が甘い資料を見ると事業のリスクを感じやすくなります。
競合マップや比較表を活用し、自社がどの位置に立っているのかを具体的に示すことが効果的です。単なる比較ではなく、なぜ自社がそのポジションを取れているのか、どの部分で優位性を発揮しているのかを示すと、事業に対する納得感が高まります。
競争優位性は技術だけとは限りません。ユーザー体験、導入速度、価格、データ構造、コミュニティの強さなど、さまざまな角度から自社の強みを見つけ出すことがポイントです。

要素6:マネタイズの仕組み
事業がどのように収益を生むのかを明確に示すことは、投資家にとって欠かせない情報です。複雑なモデルを説明しようとすると理解が追いつかなくなるため、シンプルで一目で理解できる構造が理想的です。
価格設定や収益構造だけでなく、継続利用がどの程度見込めるのか、アップセルの余地があるのかなど、未来の収益性につながる情報が丁寧に整理されている資料は、投資家の信頼を得やすくなります。LTV、CAC、回収期間などの指標を紹介すると、より専門性の高い資料として評価されます。

要素7:初期実績から見える成長可能性
数字が物語る説得力は非常に強いものです。初期段階でも、利用者数、継続率、売上、ユーザーの反応など、小さな兆しがあるだけで投資家に安心感を与えます。
成長率や利用頻度の変化など、数字の推移を示すことで、事業が前に進んでいることを明確に伝えられます。投資家は、完全に成熟した数字よりも、成長していく兆しや改善のスピードに注目しているため、動きのある数字を提示することが非常に効果的です。
数字がまだ十分でない場合には、顧客の声や初期の成功事例なども補足として強い説得材料になります。

要素8:事業を加速させる戦略
事業の今後の進め方が明確であるスタートアップは、それだけで信頼を獲得します。短期、中期、長期でどのように成長を描いているのかが整理されている資料は、未来を具体的にイメージさせるうえで非常に重要です。
戦略には、プロダクト開発、マーケティング施策、営業モデル、人材採用、組織づくりなどが含まれます。単に施策を並べるのではなく、どの施策がどの成果につながるのかが説明されていると、資料全体の説得力が高まります。
投資家は、大きなビジョンと現実的な計画の両方を求めています。このバランスが取れた資料こそが、強い印象を残します。

要素9:強いチームを示す背景・経験
どれほど優れたプロダクトでも、チームに実行力がなければ成長は望めません。投資家は事業以上にチームを見ており、創業メンバーの経歴やスキルセット、価値観、これまでの実行スピードなどを細かく評価します。
背景やストーリーが語られている資料は特に印象に残ります。なぜこの事業に挑戦するのか、どんな想いが原動力になっているのかといった情報は、投資家の心に響きやすいものです。メンバーそれぞれが事業にどのような形で貢献しているのかも併せて示すと、チームの強さがより明確に伝わります。

要素10:投資家が納得する資金計画
資金調達の目的と使い道が明確であることは、投資家が安心して判断するための重要なポイントです。採用、開発、マーケティング、組織構築など、資金の投入先が優先順位とともに整理されている資料は、投資家にとって魅力的です。
資金計画は数字だけではなく、そのお金が具体的にどの成果につながるのかを説明することが大切です。資金の使い方に合理性がある企業は、投資家からの信頼が高まりやすくなります。特に、短期と中期でどのように成長を実現するのかが説明されている資料は、説得力が段違いです。

投資家の心を動かすストーリー構築のコツ
さいごに、追加で意識しておくとよい「ストーリー」というポイントも整理しておきましょう。
ピッチ資料の本質は、単なる情報の寄せ集めではなく、読み手が自然に心を動かされるストーリーです。課題、価値、市場、競争、実績、チーム、未来の流れが自然とつながっている資料は、読み手に違和感を与えず、深い納得感を残します。
ストーリーが魅力的であれば、多少数字が弱い部分があっても投資家は前向きに受け止めやすくなります。企業の世界観や熱量が資料全体から伝わるように、言葉選びや順序にも工夫を凝らすことが大切です。
プレゼン時の話し方や資料の見せ方もストーリーを補完します。資料そのものの完成度と合わせて、伝わり方まで意識すると、投資家はより深く理解し、前向きに検討したくなります。

まとめ
投資家に評価されるピッチ資料は、一貫したストーリーの中に課題、価値、数字、戦略、チームがバランスよく整理されています。資料のクオリティは、スタートアップの姿勢そのものであり、どれだけ未来に向けて本気で事業に取り組んでいるかを伝える重要な手段です。
今回紹介した10の要素を押さえることで、自社の強みや未来をより鮮明に描き出し、投資家にとって魅力的な資料をつくることができます。資料は磨くたびに良くなるものです。改善を積み重ねながら、事業の成長に直結するピッチ資料を完成させてください!
ちなみに、「自分で資料を作るのは大変・・・」「プロの力を借りたい!」という方は、「Business Jungle資料作成」をご利用ください!1枚3,000円から、あっと驚く資料作成のお手伝いをさせていただきます。まずはお気軽にご相談くださいませ。

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