組織として目指したい世界を掲げたとしても、そこに至るための方法が明確化されていなければ、決して目指す先にたどり着くことはできません。特に組織が大きければ大きいほど、各人が共通の考え方を有していなければ、極めて非効率な組織が出来上がってしまいます。
このような背景を踏まえ、本記事では目指したい世界にたどり着くために必要となる「バリュー(大切にしたい価値観)」について解説させていただきます。誰でもわかるように初歩から説明していますので、ぜひお気軽にご覧ください!
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本記事の監修 松浦英宗(まつうらえいしゅう)
創業・事業成長に必要なサービスをオールインワンで提供するBusiness Jungleの代表。
外資系戦略コンサルティング会社(アーサー・ディ・リトル・ジャパン)などにおいて、事業戦略立案やMVV・パーパスの策定・浸透に関する豊富な経験を有する。
バリューは「大切にしたい価値観」である
繰り返しになりますが、バリューとは「大切にしたい価値観」を意味しており、組織に属するさまざまな人材が同じ方向に進んでいくための共通言語として機能します。
少人数、特に10人以内の企業であれば、経営陣が社員一人ひとりと対話することで各人の状況を把握し、彼ら/彼女らの意識・行動に対して軌道修正を図っていくことができます。
しかし、組織が大きくなればなるほど、軌道修正は極めて難しくなってしまいます。一人ひとりと対話しようにも手間が大きく、効率が非常に悪くなってしまいます。その結果、社員がそれぞれ好き勝手な意思決定・行動を起こし、組織全体の推進力が著しく低下してしまうことも珍しくありません。
このような状況において、バリュー(大切にしたい価値観)が共有されていれば、組織全体が共通のゴールに向かって、共通の方法で進んでいくことができます。その結果、組織全体の推進力は著しく向上します。
具体的な例を挙げてみると、ソニーグループは次の4つのバリューを掲げており、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパス(存在意義)の体現に向かって走り続けています。探求心を持ってワクワクしつつも、日本を代表する企業としての責任感を感じさせるバリューです。
ソニーグループのバリュー
・夢と好奇心
夢と好奇心から、未来を拓く。
・多様性
多様な人、異なる視点がより良いものをつくる。
・高潔さと誠実さ
倫理的で責任ある行動により、ソニーブランドへの信頼に応える。
・持続可能性
規律ある事業活動で、ステークホルダーへの責任を果たす。
他にも、リクルートホールディングスは3つのバリューを通じて、「まだ、ここにない、出会い。より速く、シンプルに、もっと近くに。」というミッション(果たすべき使命)の実現に取り組んでいます。チャレンジを徹底的に応援する気持ちが感じられます。
リクルートホールディングスのバリュー
・新しい価値の創造 / Wow the World
世界中があっと驚く未来のあたりまえを創りたい。遊び心を忘れずに、常識を疑うことから始めればいい。良質な失敗から学び、徹底的にこだわり、変わり続けることを楽しもう。
・個の尊重 / Bet on Passion
すべては好奇心から始まる。一人ひとりの好奇心が、抑えられない情熱を生み、その違いが価値を創る。すべての偉業は、個人の突拍子もないアイデアと、データや事実が結び付いたときに始まるのだ。私たちは、情熱に投資する。
・社会への貢献 / Prioritize Social Value
私たちは、すべての企業活動を通じて、持続可能で豊かな社会に貢献する。一人ひとりが当事者として、社会の不に向き合い、より良い未来に向けて行動しよう。
やはり、企業ごとに大切にしたい価値観は異なっており、その企業にピッタリの価値観が表現されていることがわかります。こうしてみると、各社ともに個性があって非常に面白いと感じないでしょうか!

バリューとミッション・ビジョン・パーパスの違い
さて、ここではバリュー(大切にしたい価値観)とセットで語られることが多い、ミッション・ビジョン・パーパスについて解説します。バリューが「どのように目指す先に至るか」を示す価値観であったのに対し、ミッション・ビジョン・パーパスは「目指す先」そのものを示す言葉です。詳しく見てみましょう。
まず、ミッションとは「果たすべき使命」を意味します。
はるか先の未来において、今から全身全霊をかけても叶うことがない、しかし誰もが叶うことを望むような世界を指します。叶うことがないからこそ、絶え間ない努力によって目指し続ける先と言うこともできるでしょう。
具体的には、先ほどのリクルートホールディングスのミッションを挙げると「まだ、ここにない、出会い。より速く、シンプルに、もっと近くに。」という内容となっています。
次に、ビジョンとは「将来の理想的な姿」を意味します。
ミッションよりも近い将来に位置しており、120%の努力によって長期的には達成し得るような望ましい世界を指します。ミッションだけでは具体性に乏しくどこまで目指せばいいか分からないケースも多いですが、ビジョンがあることで目指す先を具体的にイメージすることができるようになります。
同じく、リクルートホールディングスのビジョンを挙げると「Follow Your Heart(一人ひとりが、自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生。本当に大切なことに夢中になれるとき、人や組織は、より良い未来を生み出せると信じています。)」という内容となっています。
最後に、パーパスとは「存在意義」を意味します。
これがなかなか難しい概念であり教科書的な考え方をお伝えすると、ミッションが「〇〇しなければならない」という外発的動機に基づいて示された目指す先であることに対し、パーパスは「〇〇したい」という内発的動機に基づいて示された目指す先を意味します。
これだけ見るとミッションが悪であり、パーパスが善のように聞こえてしまいますが、そんなことはまったくありません。そもそも、ミッションで内発的動機を表現している企業も星の数ほどあり、唯一無二の正解はありません。そのため、初歩としてはミッション(果たすべき使命)とパーパス(存在意義)はほとんど同義であり、「遠い未来の目指す先を示す」と覚えておけば大丈夫です。
なお、先ほど例に挙げたソニーグループのパーパスは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」です。同社は、パーパスとバリューだけで、目指す先と価値観を示しており、それ以外の概念を登場させていません。これも間違いなく正解の考え方です。

なぜ企業にバリューが必要なのか?
企業にバリューが必要な理由を一言で整理すると、バリューがあることで「個人の集合体」が「統率のとれた組織」に生まれ変わるという点にあります。
企業は、パーパス(存在意義)やミッション(果たすべき使命)、ビジョン(将来の理想的な姿)を実現するために活動しています。そして、これらの実現は決して一人では達成することができず、大人数の人員が必要になります。このような状況において、バリュー(大切にしたい価値観)が策定されて社内に浸透していれば、非常に大きなメリットがあるのです。
まず、バリューが浸透していることで社内のあらゆる意思決定が、バリューに基づいて行われ、効率的な企業活動ができるようになります。例えば、対立する意見が2つあったとしても、「私たちのバリューに照らすと案Aのほうがいいよね」といった具合です。
次に、こうした意思決定や行動が当たり前になると、「企業文化」が形成されます。企業の文化が形成されれば、この文化にマッチする人材にとって極めて過ごしやすい環境が整い、社員活動の品質・スピードがさらに向上します。
そして、この文化に沿って人材採用・育成も行われることになり、文化がさらに強化されていきます。
こうした好循環があれば、今まで各々好き勝手動いてきた「個人の集合体」としか呼べないような組織(組織とすら言えないかもしれません)が、「統率のとれた組織」になり、目指す先の実現に向けて最大効率で進んでいくことができます。
あなたの会社でも、大切にされている「自分の会社らしさ」があるのではないでしょうか。もしなければ、きっと今、その会社に帰属意識を持てていないはずです。

強いバリューに共通する3つの条件とは?
ここまでで、バリュー(大切にしたい価値観)の意味や重要性はご理解いただけたと思います。次に、優れたバリューが備えるべき条件について目を向けてみましょう。
まず何よりも重要なことは、覚えやすいバリューにすることです。
バリューは作っただけでは価値はまったくありません。社員の一人ひとりに覚えられ、そして行動を変えてこそ価値があります。そのため、長々しく・たくさんのバリューを策定しても誰も覚えてくれず、まったく意味がありません。3~5つほどのシンプルで分かりやすいバリューにして、まずは覚えてもらうことを最優先に考えましょう。
次に重要なことは、自社らしさを表現することです。
例えば「社会貢献を忘れない」というバリューは、誰しも否定できませんが、誰かに強く当てはまるわけではありません。このような誰にでも当てはまりそうなバリューを掲げても誰も共感・自分事化してくれず、誰かの行動を変えることにはつながりません。自分の会社らしい表現で、唯一無二のバリューを作り上げましょう。
最後に重要なことは、自社の目指す先に関した内容にすることです。
バリューは自社の目指す先を実現するための共通言語でした。そのため、目指す先と関連した内容にしておく必要があります。これにより、「目指す先」と「そこに至るための方法」をセットで語ることができるようになり、自社の取り組みに強い一貫性が生まれます。
このような3つの条件を網羅するだけで、バリューの品質はググっと上がります。
繰り返しになりますが、バリューは覚えてもらって行動を変えてこそ真価を発揮します。「社員の心に残る内容になっているか?」を何度もチェックして、自社にとって最適なバリューを見つけ出しましょう。

メルカリのバリューは超王道
バリュー(大切にしたい価値観)は企業によってさまざまな内容が策定されていますが、国内で代表的かつ分かりやすい事例としては、メルカリが挙げられます。
メルカリのミッション(果たすべき使命)は「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というもの。このミッションを実現するために、メルカリは次の4つのバリューを設けています。
メルカリのバリュー
・Go Bold 大胆にやろう
・All for One 全ては成功のために
・Be a Pro プロフェッショナルであれ
・Move Fast はやく動く
このバリューを見ると、メルカリらしさを強く感じることができます。
今は非常に大きな組織となりましたが、スタートアップらしい攻めの姿勢や成果主義。あらゆる取り組みに対するプロフェッショナル意識。そして、海外展開を見据えた英語・日本語の両言語での記載。
また、文章も非常に短くシンプルであり、項目数も必要最小限の4つに絞られているため非常に覚えやすいです。これであれば社員の誰しもが復唱でき、自分事化して行動変革につなげてくれます。
あなたもバリューを策定する際は、ぜひメルカリのバリューをお手本に取り組んでみてください。きっと、最高のバリューが出来上がるはずです!

バリューの作り方
それでは最後に、バリュー(大切にしたい価値観)の作り方を学んでおきましょう。
まず、バリュー作りの大前提として、先にミッションやビジョンやパーパスを策定しておきましょう。具体的な作成方法はこちらの記事をご参照いただければと思いますが、自社を取り巻く現状を整理のうえあるべき方向性を策定し、それをミッションやビジョンやパーパスに落とし込んでいきます。
そのうえで、目指す先を実現するために必要な価値観を、バリューとして整理していきます。具体的には、以下のステップで進めていくと効果的でしょう。
①価値観を広く掘り起こす
バリュー策定の第一歩は、組織が大切にしたい価値観をできるだけ広く掘り起こすことです。経営陣や社員へのインタビュー、過去の成功・失敗の振り返りを通じて、「この会社らしさ」が表れるエピソードを集めていきます。たとえば「挑戦」「誠実」「スピード」「多様性」「協働」といったキーワードが出てくるかもしれません。この段階では正解や数の制限を設けず、自由に洗い出すことが重要です。
②本質を見極めて絞り込む
集まったキーワードは、多いと数十個に及びます。それらをグルーピングし、似ているものは統合し、あるいは少数派の価値観は削除して、最終的に5個前後の核心に絞り込みます。判断の基準は、先に述べた条件のうち、「自社らしさを表現できているか」「自社の目指す先に関した内容になっているか」といった観点です。ここで残るのは、組織のDNAと呼べる本質的な価値観だけです。
③言葉にして行動へつなげる
最後に、絞り込んだキーワードをシンプルで行動に直結する言葉へと表現します。ここでは、先ほどの「自社らしさを表現できているか」「自社の目指す先に関した内容になっているか」といった観点に加え、「覚えやすいバリューになっているか」という観点でもチェックしましょう。あなたが当事者として、そのバリューを見たときに共感できるか・ワクワクできるか考えて、何度も試行錯誤してキャッチフレーズを考えましょう!
バリュー策定は、①価値観を広く掘り起こし、②本質を見極めて絞り込み、③行動に結びつく言葉にする、という流れで進めることで、形骸化しない「共通言語」として組織に根づかせることができます。

まとめ:「個人の集団体」から「統率のとれた組織」になるために
バリューとは、組織が大切にしたい価値観を明文化したものです。ミッションやビジョン、パーパスが「目指す先」を示す言葉であるのに対し、バリューは「その先へどう進むのか」という方法を共有するための共通言語といえます。
ソニーやリクルート、メルカリといった企業が示すように、強いバリューにはその会社ならではの個性が息づいています。覚えやすくシンプルであること、自社らしさが反映されていること、そして目指す先と一貫していること。この3条件を満たすことで、社員の心に残り、行動を変える力を持つバリューになります。
あなたの会社にとっての「大切にしたい価値観」は何でしょうか。もしまだ明文化されていない、あるいは形骸化しているのであれば、この機会にぜひ掘り起こしてみてください。それが組織を未来へと導く拠り所となるはずです。
もし、MVVやパーパスの言語化や社内展開にお悩みであれば、私たち「Business Jungle MVV・パーパス策定」がお手伝いできるかもしれません。外資戦略コンサルやデザイナー出身者を含む多様な専門チームが、あなたの会社らしいMVV・パーパスを共にかたちにします。
